酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2013年F1第17戦 アブダビGP

 3月に始まった今年のF1も今回で第17戦。ドライバーおよびコンストラクターズともに前回のインドGPでチャンピオンが決まりましたが、ベッテルはどこまで記録を伸ばすのか? あるいはコンストラクターズの2位はどのチームがとるのか? または今年でF1を去るウェバーの勝利はあるのか? などなど、興味は尽きません。

 新興国レースの一つ、オイルマネーの勢いのすごさを見せつけられる、ヤス・マリーナ・サーキットで行われるアブダビGPが第17戦の舞台です。ここはF1カレンダー中唯一のトワイライトレースで有名です。つまり日没をまたいでレースが行われます。夕方にスタートし宵闇の中でのゴール。大都会シンガポールの市街地で行われるナイトレースにも勝るとも劣らない、幻想的な雰囲気の中で行われるレースです。

 持ち込まれたタイヤはインドと同じくソフトとミディアム。コースレイアウトはここも純ティルケ風。しかし舗装も異なれば気候もことなるということで、インドほどタイヤに厳しくありません。そのおかげでタイヤ作戦の選択に幅ができ、いつになく作戦とコース上の戦いの両方が勝敗を決する錯綜したレース展開となりました。

「セブは今日も別世界にいた」 マーク・ウェバー/レッドブル

 日本GPに続きポールポジションを奪い取ったものの、今回もスタートで失敗。いえ、ウェバーが失敗しているわけではなくて、レッドブルのローンチシステムが悪いだけなのかもしれません。しかしせっかくのポールポジションも、結局トップで一つのコーナーもパスすることができないのは、フラストレーションがたまることでしょう。しかし、それすらも今回のレース結果においては大したことではありませんでした。彼のコメントにあるように、ベッテルは一人だけ別の世界でレースをしていたに等しかったのですから。

 日本GPではベッテルとタイヤ作戦が分かれてしまい、その影響が多分にあったかもしれませんが、今回ばかりはさすがのウェバーも完敗を認めざるを得ません。しかしその別世界にいたベッテルを除けば、序盤から中盤にかけて、ロズベルグやグロージャンとの激しい2位争いを見事に制したとも言えます。それは前回のレースもそうなるはずでしたし、あるいはシンガポールもそうだったかも。しかし今回は幸いにもマシンにもトラブルは起きませんでした。

 ポールからスタートして2位に終わるというのは、決して納得のいく結果ではないはずなのに、何となくレース後の様子やコメントを見ていると、どこか清々しい感じがするのは、もはやチャンピオンシップなど諦めているからなのか、あるいは残り少ないF1のレースを純粋に楽しんでいるからなのか。

 考えてみればウェバーはそのF1ドライバーとしてのキャリアの長い期間をレッドブルとその前身であるジャガーで過ごしていました。レッドブルがまだBクラスチームだった頃からトップに上り詰めるまでの歴史を、チーム内から見ていた一人なのです。しかし残念ながらそのチームの成長と成功のほとんどはベッテルが持って行ってしまいました。そんな中、事前に引退宣言をしてから辞めることができるドライバーもほんの一握りであることを考えると、彼はそれなりに特異なドライバーだったと思います。それだけに、いったい彼の本心はどこにあるんだろうと考えてしまいます。

「僕らはミスを犯した」 フェリペ・マッサ/フェラーリ

 残り3戦と言えばマッサもそういう感慨を持ってレースをしている一人です。引退に向けてではなく、フェラーリを降りるだけなのですが。いえ、もしかしたらウェバーと違ってほとんどのF1ドライバーがそうであるように、引退する気はなくともシートがなくて引退してしまう可能性もゼロではありません。少し前のマッサだったらなおさらですが、最近の調子の良さからすれば、どこかにシートは見つかるでしょう。

 そんな好調マッサは今回も予選でも決勝でもアロンソの前に立ちふさがります。もはやチームオーダーも出ないのでマッサはのびのびと自分のレースをしているようです。スーティルとハミルトンを2台まとめてオーバーテイクしたシーンはお見事でした。最初のスティントをソフトタイヤで18周し、周囲のライバル達にワンストップ作戦か?と思わせておいて、実は手堅い2回ストップ作戦。そこそこ上手いレース運びをしているように見えました。

 しかし本人的には不満が残るレースだったようです。たしかに2回目のタイヤ交換までは5位を走り、もしかしたら4位まで上がれるかも?という快走をしていたのに、終わってみればスターティンググリッドよりもひとつポジションを落として8位に終わってしまったのですから、当然かもしれません。しかも後にいたはずのアロンソは、なぜかちゃっかり5位に入っています。

 問題は最終スティントのタイヤだったようです。ミディアムではなくて、なぜアロンソと同じソフトをくれなかったのか?と。予選を走ったタイヤで最初に18周走れたのだから、路面も良くなり、燃料も軽くなった終盤に同じ距離走るのは問題なかったはずだと。しかし「それ(=3つめのタイヤ)についてチームとは話していなかった」ともマッサはコメントしており、それって作戦を決めていなかったか、あるいは途中で急遽予定にない作戦に変更したってことになるのだとしたら、その詰めの甘さが現在のフェラーリの窮状を表しているように思います。

 スメドレーに励まされ、言われるがままにレースをし、上手くいかないとあとでベソをかくマッサ。自分で考え、必要なタイヤを必要なときに要求し、失敗しても自ら責任を取るアロンソなどと比べ、器の違いを感じさせるところですが、実はチームが考えたように従順に、機械のようにレースを運ぶという点で、ドライバーとしては一番優れているのではないかと思います。

「単に運が悪かっただけだ」 キミ・ライコネン/ロータス

 ちょうど1年前は優勝を勝ち取ったここアブダビで、今年は何もかもが最悪の結果に終わりました。フェラーリへの移籍を決めてから、予選だけでなくレースも上手くいかないことが増えてきました。もちろんそれは偶然だと思いますが。インドGPで発生した事件以降、特に歯車が狂い始め、このアブダビで不運のピークを迎えたようです。せっかく良い結果を予選で残したのにマシンは車検規定違反で失格、最後尾からスタートしたレースでは1コーナーで接触してあっけなく終わってしまいました。国際映像もレース中に足早にサーキットから立ち去るライコネンの姿を捕らえ、ただならぬ空気を演出します。

 ロータスチームが予想していたよりも遙かに良い成績を上げたために、契約にあるパフォーマンス条項分のボーナスを払うことができず、結果そのドライバーを失うというのだから皮肉なものです。それでもレーシングドライバーとしての本能から、ライコネンはレースを続け、結果を出し続けましたが、ここへ来て給料未払いを言い始めたと言うことは、やはりそれだけチームとの関係が悪化しているのは確かなのだろうと思います。歯車が狂い結果が出なくなったことと、チームとの間に確執が生まれてきたことは、どちらが原因でどちらが結果なのかよく分かりませんが。

 とりあえず残り2戦は出場すると発表されていますが、こういう状況で良い結果が出るとも思えません。彼についてはもうファンとしても来年に目を向けた方が良いのかもしれません。どんな終わり方をしたとしても、ロータスでこの2年間に上げた結果は、誰もが想像しなかったものであり、それは運が良かったのではなく彼だからこそ出来たことです。

 残る2戦はアメリカ大陸へ。来週はオースチンでアメリカGPが行われます。