酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2013年F1第10戦 ハンガリーGP

 3週間のインターバルを置いて久しぶりに開催されたF1の舞台はハンガリーの首都、ブダペストの郊外に位置するハンガロリンク。常設サーキットとしてはカレンダー中でも最も平均速度の遅い低速サーキットです。そのコースレイアウトに加え、コース幅も狭いことから非常に抜きにくいサーキットとして有名です。
 それだけに、モナコ同様スターティンググリッドは非常に重要であり、そしてスタート直後のオープニングラップのポジション争いもいつになく熾烈となり、さらにピット戦略が勝負を決します。
 しかしレギュレーションのおかげなのか、タイヤのおかげなのか分かりませんが、「抜けない」と言う割には、重要なポイントでいくつかオーバーテイクは見られました。

「こういう結果を全く予想していなかった」ルイス・ハミルトン/メルセデス

 意外な気がするのですが、これがハミルトンの今季初優勝となりました。つまりメルセデス移籍後の初優勝です。メルセデス自身は今季既にロズベルグが2勝しているわけですが、そのチームメイトにも負けないくらい印象的なレースも多かったものの、これまで勝利には恵まれていませんでした。しかしすでに3勝をマークしている相性の良いここハンガリーですが、しかしその勝利はハミルトンにとって「得意なコース」だけでは片付けられないものがあります。
 新しい構造になってから初めてレースに投入されるソフトとミディアムタイヤは、若手テストに参加できなかったメルセデスにとっては完全な初物。タイヤとの相性が厳しいメルセデスのマシンにとっては、セッティングをフリープラクティスだけで追い込むには無理があると思われていました。
 予選では本人も驚いたほどのスーパーラップによりポールポジションを奪い取ってしまったものの、「レースで勝つのは難しいと思う」という冷静なコメントを残していました。予選は予選。これまでもポールは何回も取ってきたけど、レースになるとタイヤが持たずにずるずるとポジションを失ったレースの記憶も山ほどあります。そして未知のタイヤ。いったい何が起こるか分かりません。マシンの気むずかしさを考えれば、楽観的にはなれないのは当たり前です。

 しかい、ふたを開けてみれば完璧な勝利。本来ベッテルの十八番を奪う独走逃げ切り。上位陣で唯一完璧な3回ストップ作戦を敢行したと言えます。とはいえ全て順調だったわけでなく、1回目のストップ後、前を塞いだバトンを早々に片付けたのが効きました。2回ストップはとうてい無理だけど、予想外に3回ストップはメルセデスのマシンでも十分に機能しました。ポールを取り、スタートを決め、必要なところで必要なオーバーテイクを成功させて得た、見事な勝利は単に運だけでは片付けられません。

 これでイギリスGPの無念をいくらか取り返せたことでしょう。レース後のインタビューでチャンピオンシップの可能性を聞かれて、優等生で前向きなコメントを残していたハミルトンの姿を見て「あー、ハミルトンってこんな感じでいけ好かない奴だったよね」と懐かしくなりました。もし、メルセデスが新しいタイヤを使いこなしてしまったら、チャンピオンシップは本当にひょっとするかもしれません。

「予選がうまくいっていれば勝てた」キミ・ライコネン/ロータス

 確かに理屈上はそうなのかもしれません。タイヤが替わってもロータスのタイヤに関するアドバンテージは消えず、他のチームでは機能しない2回ストップ作戦を見事に敢行し、成功させて見せました。このぬきにくいハンガリーのコースで、7番グリッドからスタートして2位に入るわけですから、もっと上位からスタートし、序盤に先頭集団に近いところにいれば、そのアドバンテージはもっと大きくなったかもしれません。
 しかし毎回ライコネンのレースを見ていて思うことは、何かもう一つ足りないのです。それは本人のコメントにあるように、予選のポジションなのでしょう。マシン特性として対極にあるメルセデスが、予選の速さだけでなくレースペースを手に入れつつある中、ロータスは逆になんとかして予選のペースを手に入れなくてはなりません。その片鱗は今回グロージャンが見せたわけですが、ライコネンのスタイルには合っていないのでしょうか。彼のキャリアを思い出せば、予選だけでなく一発の速さは十分に持っているはずなのに。
 ほぼ最下位から優勝した2005年の鈴鹿をはじめとした、過去の強烈な印象もあって、今シーズン、少ないピットストップ回数で終盤に傷んだタイヤを労りながら防戦一方で走っている姿を見て、何かが違うと思ってしまうのかもしれません。

 それでも今回、終盤にベッテルを押さえ込んだバトルは見事でした。それにしてもこの二人のバトルは安心して見ていられます。それも超ハイレベル。4コーナーでアウトから仕掛けたベッテルを絶妙なラインでブロックし、ベッテルを苛立たせます。レース後そのことで嫌味を言われても笑って相手にしないライコネンはさすがです。クールを通り越してアイスと言われる所以でしょう。

「レースの鍵となったのは、ジェンソンの後ろで身動きがとれなかったときだ」セバスチャン・ベッテル/レッドブル

 予選でポールを取り、ハイペースで飛ばして3回ストップ作戦で逃げ切る... という作戦は何もかも想定外のことが起きて上手くいきませんでした。ポールが取れなかったことはその一番の「想定外」ですが、その他にもメルセデスが逃げ切ってしまったのも「想定外」、そしてライコネンが2回ストップ作戦を成功させてしまうのも「想定外」だったことでしょう。ハミルトンとは対照的に、ベッテルにとって相性の悪いこのコース。またしても勝利は彼の手からすり抜けていきました。
 レースのポイントは本人コメントにあるとおり、1回目のピットイン後にバトンに捕まってしまったこと。ハミルトンは早々にオーバーテイクしていったのに対し、ベッテルは相当長い間手こずってしまいました。このときの遅れによって、ハミルトンを逃がしてしまい、ライコネンに前に行かれてしまったわけです。
 ストレートスピードが伸びず独走向きのコーナリングマシンというレッドブルのマシン特性によるものだと思うのですが、バトンに押さえ込まれたこと然り、ライコネンを仕留められなカットことも然り、こういうことで「バトルに弱い」という印象が残ってしまうのでしょう。
 それでも良いこともありました。スタートに失敗しあわや順位がた落ちと思われたところで、絶妙なライン取りで2位を守り切ったことが一つ。そしてもう一つはアロンソがベッテル以上に不振だったことです。手に入るはずだった優勝どころか2位も失ったけれども、チャンピオンシップで言えば、2位のアロンソとの差を広げることができました。

 過去、思ったようにいかないと癇癪を起こしたようにとっちらかってしまうこともあったベッテルですが、こうして我慢のレースができるようになったなんて大人になったなぁ、と(上から目線で)思ってしまいます。あとは、ニューウェイ様、ベッテルにもっとトップスピードを!とベッテルファンとしては願いたいものです。

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 今年は3週間インターバルというのが何回もあったので、あまりレースをたくさん見た気がしないのですが、それでもすでに今シーズンも折り返しをすぎて10戦が終了しました。これから8月末まではF1は夏休みとなり、次のレースはいよいよベルギーGPです。ベルギーGPとなるともう鈴鹿はすぐ、って気がしてきます。