酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2013年F1第2戦 マレーシアGP

 先週の開幕戦に続き、早くも第2戦目となるマレーシアGPがセパン・インターナショナル・サーキットで行われました。マレーシアのレースと言えば暑さと湿気、スコールとの戦いです。コンディション変化を正確に読み、正しいタイミングで正しいタイヤ選択を行わなければ勝ち残れないレースです。果たして今回も予選から突然の雨に降られ、レースも開始前に激しいスコールに見舞われました。
 例年いろいろな意味で荒れたレースとなりやすいマレーシアGPですが、今年は天候要因ではなくて、全く予想していなかった部分でとても熱いレースが展開し、史上まれに見る、ある意味「荒れた」レースとなりました。


 荒れた要因は「チームオーダー」です。現在のレギュレーションでは認められており、チームは作戦上必要とあれば2人のドライバーに、順位の入れ替え、あるいは固定の指示を出すことができます。チャンピオン争いが大詰めを迎えた時期ならいざ知らず、合法となればこんな序盤戦でもチームオーダーは出されてしまいます。

「今日は失敗だった」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル

 優勝したというのに何が失敗だったのか? それはチームオーダーを無視したこと、です。

 最後のタイヤ交換を終えてワン・ツー体制を築いたレッドブル・チームは、二人のドライバーにそのポジションを守るよう指示します。マシンを労り、タイヤを労り、確実にワン・ツーでチェッカーを受けるために。しかしその指示にベッテルは従わず、最終スティントでウェバーに果敢にアタックし、トップを奪い取ります。

 ピットではチーム関係者が頭を抱える中、F1ファンには堪らないギリギリのバトル。しかも過去に因縁を持つチームメイト同士、トップを賭けての戦いです。これが面白くないわけがありません。ベッテルが「失敗だった」とレース後に悔やむことになるこのファイトは、非常に見応えのある素晴らしいものでした。

 ベッテルがそうした理由はいくつも思い浮かびます。レース中盤にペースの上がらないウェバーに前を押さえられ、背後から迫るハミルトンの脅威にさらされ続けたことは無関係ではないはず。ポールからスタートしたのに色々なことがうまくいかないレースに、溜まりに溜まったフラストレーションと怒りが爆発したのかもしれません。もちろん「自分がレッドブルのNo.1である」という放漫と「チームはきっとと受け入れてくれる」という甘い見通しもあったことでしょう。ウェバーを軽視していたのもおそらく事実と思います。しかし彼を突き動かした一番の理由は「4年連続チャンピオン獲得」のため、であるはずです。

 彼はなんっと言っても現役の3年連続チャンピオンなのですから、「チームオーダーを出すとすれば自分を優先すべき」くらいのことを言って、ウェバーへのアタックを禁止したチームオーダー自体にクレームをつけ、もっと開き直れば良いのに、とも思ってしまいます。仮に心の中では「やべぇ、やり過ぎた...」と思ってたとしても。実際彼はレッドブルのNo.1であり、ウェバーとは比べるのも馬鹿らしいほど格が全うのです。

 チームやウェバーと仲良くやっていくことよりも、チャンピオン獲得が優先すると判断したのであれば、それはF1ドライバーとして正常な判断でしょう。この序盤からそういう意識でレースをしているのは、もしかしたらアロンソとベッテルだけなのかもしれません。

 でも、レース後のチームとウェバーの激しい怒りに直面し、叱られた子供のように小さくなって泣きそうな顔になってしまったベッテル。本当に彼は面白いドライバーです。ヘルメットを被るとあんなに素晴らしいドライビングをし、大胆で果敢で冷徹になれるのに、ヘルメットを脱ぐとごく普通の若者に戻ってしまうようです。それにしてもお葬式みたいな表彰台と半泣きのインタビューと言うのもある意味見応えがあり面白いものでした。

 ベッテルにはいつまでも天然のままでいて欲しいと思うと同時に、4年連続チャンピオン獲得に邁進して欲しいものです。力の対決で敗れるなら仕方がありませんが、それ以外の理由で負けるのは馬鹿らしいことです。そして今回は力ずくで奪い取った勝利ですから、何一つ恥じることはないはずです。

 チャンピオンを狙うドライバーとしての矜持を見せた代償はもしかしたら今のF1の世界ではかなり大きいのかもしれません。うん、私が思ってるようなドライバー、チャンピオン像というのは古くさいものなのでしょう。シートがお金で買えるこの時代、F1チャンピオンといえどもサラリーマンに過ぎないのかもしれません。チーム代表がサラリーマンであるように。

「マルチ21! マルチ21!」 マーク・ウェバー/レッドブル

 レース後、表彰式の控え室でウェバーがベッテルに投げつけた言葉です。カメラがいる前でチームの暗号を大声で叫ぶほど取り乱していたようです。これが問題のチームオーダー、「現在のポジションを保持しろ」の意味と言われています。ウェバーの優勝を確かなモノにするはずだった幻の言葉です。

 確かにウェバーにしてみれば今回のことは面白くないことでしょう。でも、それもこれも自分が撒いてきた種です。力の対決では全くベッテルに敵わず、いざというバトルでは幅寄せするくらいしか能がないのに、その実力差を認めることができず、ベッテルのチャンピオン獲得がかかった昨年の終盤戦では、嫉妬心からか一切ベッテルへのサポートは見せなかった、自分の能力と器の小ささが招いた結果です。そう、ベッテルが信頼を損ねる前に、ウェバーこそが信頼を損ねてきたのです。

 後のインタビューであれこれ辛らつな言葉を吐くくらい怒っているなら、そして本当に自分がベッテルに対抗できるだけの力があると信じているなら、チームオーダーを無視して仕掛けてきたベッテルに、逆に仕返すくらいのことをなぜしなかったのか? なぜ終わってみれば4秒も離されているのか?

 結局その程度のドライバーなのだ、という以上でも以下でもないのだと思います。

「チームの決断は理解できる」 ニコ・ロズベルグ/メルセデス

 レッドブルの2台が壮絶なバトルを演じる後方、3位と4位のポジションではメルセデスの2台が同じようにチームオーダーの問題に直面していました。速く走る力があるのにそれを封じられたのはニコ・ロズベルグ。彼はベッテルとは違い、チームの指示にしぶしぶながら従いました。

 悪い子役のヴェッテルに対し、言いつけを守ったよい子のニコ。その差は何かと言えば、私には置かれた立場、背負ってる看板の大きさ、そして目指すレベルの違いとしか思えません。ニコはここでわずか数ポイントを獲得することより、チームやチームメイトと確執を生まずにうまくやっていくことを優先する必要があったわけです。それは彼の今後のキャリアにとって正しい判断に違いありません。

 良い子であると同時にかわいそうなニコ・ロズベルグ。彼はドライバーとしての評判を上げたことでしょう。少なくともパドック内では。

「ニコの方が表彰台にふさわしかった」 ルイス・ハミルトン/メルセデス

 タイヤに厳しく、燃料を使いすぎて終盤にスローダウンを余儀なくされてしまったハミルトン。最終スティントを無事に走りきることを優先したチームオーダーによって、そのポジションを守り切ることができました。この歯が浮くような優等生なコメントもハミルトンらしいものです。

 でももしニコがチームオーダーを無視したら? ハミルトンは怒ってコース上の戦いを受けて立ったでしょうか? あるいは立場が逆だったらハミルトンはチームオーダーを守ったでしょうか? 無意味な空想ですが、そう考えてみるのも面白いものです。

 いずれにしてもハミルトンは大きな借りをロズベルグに対して作ったことになります。いつかこのお返しがどこかのレースで行われるとしたら... それはそれでまた興ざめのレースとなることでしょう

チームオーダーとは

 今回の出来事は、モータースポーツメディアにおいても、熱心なF1ファンの間においても、いろいろな考え方で論争を巻き起こしそうです。でも私としてはベッテルの行為がどうこうというよりは、「チームオーダーの合法化」自体が正しいのかどうか?という問題なのではないかと思います。

 チームマネージメントの理論からしたら、今回のチームオーダーは出されて当然の内容ですが、シーズンが開幕したばかりのこの時期において、レーシング行為を制限するようなチームオーダーが乱発されるとなると、それはチームオーダー合法化の負の側面であると言わざるを得ません。
 レース終盤15週くらいを残して、上位4台がレースすることをやめてトラックをぐるぐる回るだけ、という状況はモータースポーツの精神に反しているのではないか? と思ってしまうのがファン目線の理論ではないかと思います。

 いずれにしても今回の騒動はチームオーダー自体が禁止されていれば、起きなかったのは確かです。せめてある程度の制限をかけるべきなのではないかと思ってしまいます。


 さて、次回は3週間後、中国GPです。