酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2012年F1第9戦 イギリスGP

 F1は2週間おきのヨーロッパ連戦が続いていますが、このくらいのペースが見る方にとってもちょうどいいのではないかと思います。今回はもうすぐオリンピックが開催されるイギリスでのレースでしたが、F1の人気はもちろん衰えることなく、決勝日に10万人以上の観客が集まってきました。土曜日の予選は大雨に降られ、途中1時間ほど中断しましたが、その間のグランドスタンドの盛り上がり方をテレビで見ていて、ファン層の厚さに加え、成熟度の高さも感じました。だからこそシルバーストーンで行われるイギリスGPは、クラシックレースの中でも特に有名で、権威ある地位を保っているではないかと思います。
 さて、日曜日の決勝は予選に引き続き大雨になると予想されていましたが、蓋を開けてみれば見事な晴天。いや、雲は多かったものの雨が降りそうな気配はありません。結局予想外のドライレース。その結果、全車がほぼ新品ドライタイヤを全数持っているという、珍しいレースとなりました。裏を返せば誰もドライタイヤをまともに試していないままスタートしたということになります。このことがレース結果にも大きな影響を与ることとなりました。

「フェルナンドがしたたかなことを知っている」 マーク・ウェバー/レッドブル

 このコメントは、レースの最終スティントでトップを行くアロンソのタイヤが持たないだろう、と無線でピットから告げられたときの状況を説明したものです。そして次のように続きます。「彼はタイヤに気を配って、ここぞという時まで待って、逃げ切ると思っていた。」
 そう、テレビでレースを観戦している私もそう思っていました。恐らく多くの他のF1ファン達もそうだったと思います。そして、ウェバーは「しかし2秒以内に近づいたとき、彼は少し困った状況にあるのかもしれないと考え、実際にそうだった。」と続けています。
 この一連のコメントには、アロンソというドライバーの実力、レースの上手さについてのウェバーの認識が明確に表れています。つまりは「どうせアロンソは自分たちより一枚上手だ」と。タイヤの状況が少し悪いくらいで、簡単にオーバーテイクできる相手ではなく、DRSが使える領域まで近づいてはじめて、本当にアロンソにはトラブルが発生していることに気づくというあたりは、私たちファン目線の印象とそう変わりません。
 劇的な逆転劇だったこともあり、もっと大口を叩いたり、大げさなことを言ってみせたり、いかにもな空虚なコメントをすることもできたはずですが、こういった正直で生々しいコメントは説得力があってとても面白いです。ウェバーをほんのちょっとだけ見直しました。
 でも、レッドブルで走るのはもう今シーズンまでで十分だと思いますけど(^^;

「レースのたびに状況が改善して今や表彰台争いをしている」 フェリペ・マッサ/フェラーリ

 ウェバーの次にはアロンソを取り上げるべきかも知れませんが、ちょっと目先を変えて同じフェラーリに乗るマッサに注目してみたいと思います。今回のレースでマッサが表彰台争いをしていたかどうかと言うとそれは微妙なところで、実際は4位をすんでの所で守り切った、という方が当たっているかと思います。
 それにしてもシーズン序盤は、ポイント獲得もままならず、いつクビになってもおかしくないと思われたマッサですが、コメントに表れているようにここ数戦の成績はまぁまぁです。アロンソが特別だと考えれば、優勝できなくても表彰台に乗れなくても、コンスタントにそれなりのポイントを稼いでいる現状は、ほぼフェラーリのマシンの実力を反映した順当な結果と言えるのかも知れません。
 しかし、3強と言われるチームの各ドライバーがそれぞれ勝利を挙げ、チャンピオン争いをしているここ数シーズンの状況を見るにつけ、いくらフェラーリのマシンの出来が悪いとは言え、あの奇跡の2008年最終戦ブラジルGP以降優勝がないばかりか、過去30戦にわたって表彰台にも上がれてないという現実は、フェラーリのナンバー2としてどうなのかな?とも思います。チームの信頼が篤いにしてもあまりにも不振が長すぎます。
 いずれにしろ、今後このままの調子で地道にポイントをとり続けても、フェラーリでの8シーズン目は十中八九ないでしょう。幸か不幸か前任のバリチェロと違って、本人はフェラーリのNo.2というシートの居心地が良いようですが、本当はそれは不幸なことなのだと思います。
 まだ若いですし、速さと巧さはあるのだから、それを生かす道は他にあるかも知れません。でも残念ながら今のシートにしがみつく限り、ドライバーとしては"上がり"と言わざるを得ません。

「事故は僕の責任」 小林可夢偉/ザウバー

 またしてもミスによりレースを台無しにしてしまいました。どうしてこうも想定の遙か斜め下を行く事態が起こるのでしょうか。もちろん今回の責任はマシンを運転していた小林可夢偉にあるに決まっています。前レースのペナルティを受けて17番グリッドという下位からスタートしたわけですが、2回目のピットインまでに9位か10位を狙える位置まで追い上げていました。それもこれも2回目のピットインでのオーバーラン事故によって消え去りました。
 ドライコンディションでマシンに問題があったわけでもなく、後ろから来ていたヒュルケンベルグとのポジション争いで、単にピットインを焦っていたことが招いたドライビングミスだと思います。

 いえ、それでもファンとして彼に対して好意的に考えれば、最近頻発するチーム責のピットミスや、今回の予選でのチームによるタイヤ選択ミス、ちぐはぐなレース戦略などなど、チームが小林可夢偉に焦りと苛立ちを植え付けたという面もあるのかも。だから今回の事故についてチームにも責任の一端があるとまでは言えませんが、もしドライバーとチームの間に信頼関係やコミュニケーションの問題があるとするならば、やはりチーム側のマネージメントが何とかしないといけないことがあるはずです。

 小林可夢偉の鋭くてアグレッシブなドライビングへの評価は定着していますが、それは一方では安定感に欠けることへのリスクです。確実に結果を出すレースの上手さをこれまで示してきたはずなのに、ここ2戦でぶちこわしになってる気がします。いずれにしてもザウバーは今後何シーズンもいるようなチームではありません。その先のキャリアのためにも、もっと丁寧に冷静に、時にアグレッシブな走りをして、印象に残るレースをして結果を出していた頃に戻ることを切に願います。

 混戦模様の今シーズンですが、ドライバーズランキングは少し傾向が見えてくるようになりました。アロンソがトップで、以下ウェバー、ベッテル、ハミルトン、キミと続いています。バトンは8位、マッサは13位です。上位3人までが29ポイント差で実質チャンピオン争いと言えるのは今のところここまでかと思います。もちろんまだまだかなりの範囲で大逆転の可能性はあります。

 次回のレースは来週末のドイツGP、今年はホッケンハイムで行われます。