酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2012年F1第5戦 スペインGP

 3週間のブランクを経ていよいよF1ヨーロッパラウンドが始まりました。その始まりは例年通りスペインGPです。ポストシューマッハ時代の担い手の最右翼であるアロンソを生み出したスペインはF1人気が高い国。そしてもちろん伝統のあるレースでもあります。

 これまでの4戦で優勝者は4人、優勝チームも4チーム。つまり誰も飛び抜けて強いチーム、ドライバーがおらず、ほんの少しのことで優劣が大きく動いているのです。しかもその「ほんの少しのこと」が何なのかを正確につかんでいる人は誰もいません。それは今回のレースでも証明されたと言えそうです。

「F1レースで優勝した最初のベネズエラ人になることは大きな名誉」 パルトール・マルドナド/ウィリアムズ

 彼のコメントを取り上げるのは初めてです。はっきり言ってただのペイドライバーの一人としか思っていませんでした。デビューイヤーの昨年、ウィリアムズがチーム丸ごと絶不調で、まったく目立ったレースをしていなかったことがもちろん大きな原因です。
 今シーズンはウィリアムズは復調の兆しを見せていますが、せいぜい中段グループでザウバーと戦えるかどうかと言ったレベルと思っていました。いや、そのザウバーでさえ優勝目前まで行けたのだから、同じだけのチャンスはウィリアムズにもあったということなのでしょう。
 予選での好成績について、「優勝できるとは思ってない」とまでコメントしたチームの分析は非常に冷静で、上手く他チームの隙を突いてタイヤを温存し、クリアラップが取れただけだ、とのこと。同じマシンに乗りながらセナはその点上手くいかなかったわけです。何か秘密兵器を持ち込んだわけではなく、レースでのペースがどうなるかは誰にも分かりません。
 その冷静さの裏で、実は密かに優勝は狙っていたのでしょう。マルドナドはスタートでアロンソに行かれてしまったのの、その後はギャップを開けられることもなくしぶとくついていきます。その一方で3位以下は突き放しつつあり、レースが進むに従って優勝争いはアロンソとマルドナドの一騎打ちとなってきました。
 その対決の大きな転機は2回目のタイヤ交換タイミングと、最終スティントでのコース上のバトル。絶妙なピット戦略によってまんまとトップを奪い返した上に、レース終盤のアロンソの猛攻を防ぎきりました。結局そのままタイヤが終わってしまったアロンソに対し、マルドナドは防戦一方のバトルをしながらもタイヤもケアし続け、最後は再びギャップを再び広げることに成功。天候要因でも何でもなく、実力で優勝を勝ち取ったわけで、本当に見事なレースとしか言いようがありません。
 凋落著しいウィリアムズは、今ではすっかり中段の弱小チームになっていますが、F1の世界ではフェラーリとマクラーレンに並ぶ歴史と伝統を持ち、約20年前は堂々たるチャンピオンチームであした。チームクルーはもちろん世代代わりしているはずですが、チームのDNAとして勝ち方を今でもしっかりと知っているのではないか思います。
 F1ドライバーの中でベネズエラ人というのは珍しいですが、彼が初めてではないそうです。しかしもちろん優勝したのは初めてなわけで、自国出身者の初優勝を20年間待ちわびている日本人ファンの一人としては、ベネズエラの人達がうらやましい限りです。

「この2位は優勝のように感じる」 フェルナンド・アロンソ/フェラーリ

 このコメントは本心でしょうか?確かに今年のフェラーリのマシンの酷さからすれば、マレーシアで望外の優勝を勝ち取った後で、またもや優勝争いが出来るとは思っていなかったかも知れません。しかもここはアロンソの母国、8万人以上が入ったスタンドのほとんどが味方についていたわけです。しかしピット戦略を間違えなければ、あるいはレース終盤の猛アタックでもう少し違うことを試していれば... とタラレバがいくつも思いつくのではないかと思います。
 特に2回目のピットタイミングは酷いものでした。他のチームでも非常にコンサバティブな作戦しか取らず、レース状況に合わせるよりは、きっちりと予定したプログラム通りに作戦を進めるチームが目立ってきたようです。それは、それだけタイヤのライフについて自信がなく、ちょっとの無理も利かないし、限界を超えたらあっという間に谷底に落ちてしまう、という恐怖があるのでしょう。
 フェラーリの余りにも無頓着なピット戦略も、タイヤに自信がないからだと思いますし、もう少し言えばマルドナドのウィリアムズを少し軽く見ていたのかも知れません。きっと抜き返せるに違いないと。実際寸前まで追い込めたわけですから。そう考えると、上手くやれば本当は勝てたはずと考えるのが自然です。
 いずれにしてもやはりアロンソは凄いドライバーだと思います。レースの上手さは折り紙付きで恐らく現役ドライバーでは一番なのは間違いないのでしょう。そんなトップドライバーがグズグズなフェラーリに乗っているというのだから、F1っていろいろな面でやっぱり面白いです。

「先頭に出ようと思ったら、週末にすべてをまとめなければならない」 小林可夢偉/ザウバー

 これはマルドナドの優勝に対する、自らとチームの状況への反省の言葉であると同時に、希望でもあると思います。つまり、自分たちにも優勝のチャンスはあるのだと。特に今回で言えば予選でのマシントラブル。絶好調なのにQ3を走れず思うようなグリッドを取ることができませんでした。
 しかし今回のレースはマシンもしっかり決まり、チームの戦略も大きく外すこともなく、小林可夢偉らしさが全面に出た良いレースでした。難しいタイヤ管理をしっかりこなしてポジションを少しずつ上げながら、バトンとロズベルグをDRSも使わずにしっかりとオーバーテイクした上の自己最高5位フィニッシュ。
 確かにどうしようもなく遅いバトンやロズベルグに引っかかることなくレースができていたら、もっと上位にチャレンジしていたのでしょう。そういう意味ではフラストレーションの溜まるレースだったに違いありませんし、チームももっと大胆にピットタイミングをアンダーカットすべきだったのかも。可夢偉はタイヤの使い方が(たいていの場合)上手いのですから。
 上位チームは一貫しておらず誰も抜き出ていない状況の中で、ペレスがマレーシアで2位になり、マルドナドが今回優勝できたのだから、自分も週末通してすべてを最高にまとめれば優勝するチャンスがあると考えているのでしょう。しかしそのチャンスはもう間もなく終わってしまう前半戦しかないのかもしれません。

 もう一つ気になったのは、セナとシューマッハのクラッシュ。結局追突した方のシューマッハにペナルティが出ましたが、車載映像を見た印象では、セナが動きすぎているようにも思えました。でもDRSを使い圧倒的に速度差があるのにシューマッハは不用意に近づきすぎているようにも思えます。結局シューマッハが次戦で5グリッド降格という裁定がおりました。
 さらに、久しぶりの優勝に沸くウィリアムズは日曜日の夕方にガレージから火事を出して大騒ぎになりました。様々な機材が被害を受けたようでセナのマシンも火を被ったようです。一方マルドナドのマシンは災難を逃れました。燃料が漏れて火が付いたと言われていますが、近年無かった事故だけにびっくりしてしまいました。次のレースへの影響が心配です。

 さて次回は2週間後、伝統のモナコGPです!