酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2012年F1第4戦 バーレーンGP

 バーレーンGPはアブダビとともに最近開催されるようになった新興国GPの一つで、F1の新市場開拓の足がかりとして重要なレースです。しかし昨年は、いわゆる「アラブの春」によってバーレーンの国内政情不安のために、開幕戦に設定されていたレースががキャンセルとなりました。今年もまだ情勢は完全に収束しておらず、いろいろな懸念事項があったようですが、レースは予定通り開催されました。

 報道メディアもバーレーンだけは現地取材を諦めたりしたところが多いそうですし、実際にフォースインディアはチームスタッフが木曜日に危険な目に遭い、金曜日午後のセッション(フリー走行2回目)は参加せずに、早々にホテルに引き上げるなど、やはり完璧に「問題ない」とは言えませんでした。しかし結局は日曜日まできっちりと予定は消化され、決勝レースは無事に行われました。テレビ画面から伝わってくる限りにおいては特に妙な緊張感は感じられません。

 さて、今回のレースをひと言で言い表すなら(って、そんな必要はないのですが^^;)「復活」が一番ぴったりきそうです。

「チャンスは一回だった」 キミ・ライコネン/ロータス

 今回のレースの主役は間違いなくライコネンです。予選では11番手というそれほど良くないポジションだったわりには、いざレースがスタートしてみればロータスの2台は非常にペースが良く、あっという間にポジションを上げていきます。フェラーリはもちろんマクラーレンさえも易々とオーバーテイクし、1回目のピットストップを終えてみれば3位まで一気に上がっていました。

 そのペースはその後も変わることなく、レース中盤まだかなり周回数が残っているところで、トップを独走していたベッテルに追いついてしまいます。レースのハイライトは34周目。タイヤに苦しむベッテルに対し、まだ余裕のあるライコネンがDRSゾーンを利用してオーバーテイクを仕掛けたシーン。

 圧倒的なスピード差で追い抜きにかかり、明らかに仕留めたと誰もが思った車載カメラの映像でしたが、ベッテルは絶妙なタイミングで絶妙なブロックラインを取ります。それに素早く反応してアウトへマシンを振ったライコネンでしたが、後のインタビューで「間違ったラインを取ってしまった」とこの時のことを説明しています。「チャンスは一回」というのはこのチャレンジのことを指したもので、結局失敗に終わってしまいました。

 ここ数シーズンのロータス(ルノー)のチーム力などからして、シーズン前から「優勝争いがすぐに出来るとは思わない」と、現実的なコメントしていたライコネンですが、いざシーズンが始まってみれば手応えを感じているのか、かなり前向きなコメントが目立つようになりました。今回の2位という結果も望外の好成績とも言えますが、レース後のコメントは過去のライコネンにはなかったと思えるほど、後悔の言葉が飛び出しました。マッサやグロージャンのオーバーテイクに手間取ったこと、ベッテルとのバトルの失敗、ピットイン戦略などなど。それらの言葉の裏には「絶対に勝てた」という自信があったことを伺わせます。

 ということで、元チャンピオンの本格的復活となったレースであり。ついでに言えば元ルノーと言う意味でも、「ロータス」と言う名前という意味でも、チーム自身にとっても復活のレースだったと言えるのでしょう。

「僕の望むマシンに仕上げてくれた」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル

 今シーズン初のポールポジション、そして今シーズン初の優勝。2年連続のディフェンディング・チャンピオンもようやく復活したようです。大幅なレギュレーション変更は、レッドブルを狙い撃ちにしたものだと愚痴も聞かれますが、F1の世界ではチャンピオンチームの力を削ぐためのルール変更は常に行われてきたこと。それだけに3年連続のチャンピオン獲得というのは非常に難しいわけです。それに挑戦する権利を得ただけでも大変なことですが、実際にベッテルは序盤戦は非常に苦しみ、マレーシアではレーシング・アクシデントに対して癇癪をおこしたりして、未熟な面を覗かせています。

 しかし、今回のレースは久々のポールtoウィン。ベッテルらしいレースぶりでした。ライコネンに攻められてあわやというシーンもありましたが、あのブロック行動の巧妙さは彼のレースのセンスの良さを表していると思います。物議を醸したロズベルグとはちょっとレベルが違いそうです。ライコネンを相手に、タイヤの状態が悪く、もともとストレートスピードで負けている上にDRSを使って仕掛けられたところえを、押さえきったのですから。

 とっちらかった時の焦り具合に未熟さがある反面、すれすれのバトルでは王者らしい貫禄のある巧さを見せるようになりました。その力を発揮できたのも、昨年までのようにベッテルの好みに合ったマシンにようやく仕上がってきたから、と言うことなのでしょう。中国GPでは排気システムを旧型に戻したりして、まるでまだテスト期間中のようなことをし、基本的な部分がまったく仕上がってないのでは?と言われましたが、それからわずか1週間でここまでマシンを仕上げたのだから、中国GPでのギャンブルも意味があったのかも知れません。

 さて、ベッテルとレッドブルは4戦ぶりに早くも復活してしまったのでしょうか? 今シーズンはレースごとに勝者が入れ替わる激戦ですが、ベッテルが昨年同様に満足のいくマシンを手に入れてしまったとしたら、ライバル達にとっては大問題です。

「スタートが遅すぎた」 小林可夢偉/ザウバー

 予選12位というポジションは、好調だった前戦の予選と比べるとかなり悪いですが、小林可夢偉にしてみれば十分に大量ポイントが狙える位置だと思っていました。そのためにはスタートでごぼう抜きにしつつ、ギリギリのタイヤ戦略を完遂し上位でチェッカー受けるというレースを、彼は過去に何度も成功させてきました。今回もそれが期待されたのですが...

 結果的にはすべての思惑は外れ、スタートも遅ければレースペースも悪く、はてはタイヤ戦略も完全に外して、2回ピットストップ作戦で進めていたのに、最後の最後で3回目のストップをせざるを得なくなると言う、完全に失敗レースとなりました。まるで昨年の日本GPを見ているかのような、終盤の落ち方です。

 スタートについて言えば、ペレスも大幅にポジションを落としているので、マシン側に何か問題があった可能性もあります。タイヤ戦略についても、最初から3回ストップ作戦を取っていたペレスもノーポイントに終わっており、結局のところ引用した可夢偉のコメントにあるとおり、マシンがこのコースに対して余りにも遅かった、ということなのでしょう。

 それにしてもザウバーと可夢偉は、最近タイヤ戦略を外してしまうことが多く、マシン自体の開発もそうですが、チームのレースマネージメント全体に何か問題があるのではないかと心配になってきます。ジェームス・キーが抜けた穴はやはり大きかった、ということにならなければ良いのですが。幸いザウバーチームは新しいスポンサーを手に入れたようですし、ネガティブなことばかりではありません。

 中国で初優勝を遂げたメルセデスとロズベルグは、また元に戻ってしまったかのようです。得意なはずの予選で振るわず、レースも5位でした。それよりも激しいバトル、というかブロック行動で目立ってしまいました。審議の結果ペナルティなしとなりましたが、あまり見ていて気持ちの良いシーンではなかったです。ま、相手がハミルトンなら良いか(^^;

 絶好調が持続するチームがないので、次戦はどうなるでしょう? また新しいウィナーが生まれるのかも。次のレースはまたしばらく間を置いて3週間後のスペインGP。いよいよヨーロッパラウンドの始まりです。