酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

吹花の風

吹花の風 梟与力吟味帳 (講談社文庫)

吹花の風 梟与力吟味帳 (講談社文庫)

料理に毒を盛る―。「鼠小僧次郎兵衛」を名乗る脅し文が名だたる高級料亭に届き、江戸の町は騒然とする。吟味方筆頭与力となり、探索に当たる逸馬は、薬種問屋『常磐屋』の延命丸という毒で死んだ大工の熊吉こそ、「鼠小僧」張本人ではないかとの疑いを抱く。梟与力最後の裁きを描くシリーズ完結巻。文庫書下ろし。

Amazon.co.jp: 吹花の風 梟与力吟味帳 (講談社文庫): 井川 香四郎: 本

 梟与力シリーズの第十二巻です。このシリーズも毎回欠かさずに買って楽しみにしていたのですが、なんと今作で完結編だと言うではないですか。こんなに早く終わってしまうとは意外でした。遠山の金さんと鳥居耀蔵が両奉行だった時代を舞台とし、実際にあった政争を背景としているとは言え、勧善懲悪、大岡越前的人情裁きなどなど痛快な娯楽小説として、いつまでも続くと思い込んでいたのは、佐伯泰英作品の読み過ぎなのかも。

 しかし... 結論から言うと実に納得のいかない「???」だらけの最終巻でした。何というか、事情があってとりあえずやっつけで終わらせた、みたいな。いや、「みんな死んでしまったとさ」みたいな強引さではないので、その気になれば再開できると思えます。とい言うか、最後の落ちはもはやどちらでも良くて、納得いかないのは今作のストーリーそのものです。

 このシリーズは町方役人を主人公とあって、基本的に事件ものであり、正義と悪の戦いでもあり、江戸の市井を描いた人情ものでもあり、幼なじみ三人による青春学園ものでもあり、三角関係のもつれなどの色恋もあり、老中や奉行、目付など幕府要人たちによる政争ありと、様々な側面を持ったリアリティのある娯楽小説でした。過去十四巻を通して色々な伏線が張られてきていました。

 しかしこの最終巻はなんというかそういう伏線はまったく関係ない大立ち回り... これは冒険活劇と言うべきなのでしょうか? 読んでいてふと頭に浮かんだのは「こりゃインディージョーンズの世界だな」ですし、ちょっと冷静になってみると「そういえば"地獄の黙示録"ってこんな話じゃなかったっけ?」と思い当たったり。あるいは、ドラえもんのレギュラーシリーズが、普通に日常生活を背景に描いているのに対し、映画では非日常な「大冒険シリーズ」をやってた、みたいな激しいギャップ。

 あまりにも突然に、これまでと無関係な、しかもありえないくらいの大事件が唐突に発生し、あまりにも展開が安易で早すぎ、そしてあまりにもあっけない幕切れ。もしかしたら、私が何か勘違いしてこのシリーズを深読みしすぎただけなのでしょうか? いや、お話としては面白いかもしれないし、もしかしたらこれが佐伯さんの手によるものだとしたら、すんなんり読めたのかも。いや、佐伯さんならもっとうまく書いたかな?

 ということで、「最終巻」というにはあまりにも理解不能で残念な一冊でした。このシリーズをこれまで読まれてきたなら、この最終巻は敢えて読まずに良い思い出だけを胸に閉まっておいた方がいいかもしれません。

 【お気に入り度:★★☆☆☆】