酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

愛憎

愛憎: 吉原裏同心(十五) (光文社文庫)

愛憎: 吉原裏同心(十五) (光文社文庫)

吉原で近頃人気の中籬に脅迫文が投げ込まれた。相談を受けた吉原会所の神守幹次郎らが調べ始めたところ、その前に刺客・夜嵐の参次が現れた。参次は人気花魁・薄墨太夫の前にも出没。そして、薄墨が可愛がっていた禿の小花が消えた。はたして小花の拐かしの首謀者の狙いは何か。また、幹次郎と薄墨太夫を狙う夜嵐の参次の正体とは―。絶好調シリーズ第十五弾。

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 吉原裏同心シリーズの第十五巻です。昨秋に発行されていたもののですが、ようやく読むことができました。このシリーズはそれほど発行ペースが早くないのでこういう場合には助かります。さて、前作までは何が起きていたんだっけ?ということもほとんど忘れていますが、そんなことはこの小説を読む上では大した問題ではありません。幹どのと丁女さまと、吉原会所の人々に薄墨太夫の関係と立場さえ覚えていれば、今作単独でも十分に楽しむことができます。

 吉原は男の虚栄と欲望が渦巻く夢の世界、遊女にとっては華やかに飾られた地獄の舞台でもあり、裏で大金が蠢く闇の世界でもあります。そんな吉原に関わる人々の人生と人情の物語はどこをとってもドラマチックです。江戸時代唯一の官許の遊里として繁栄を続けるための政治への介入、そこに起こる数々の事件にまつわる捕物風なストーリー展開に、最後はラスボスと対峙した幹どのの大立ち回りで締め。わりと典型的な勧善懲悪ものでいて、背景設定は手の込んだ非常に風変わりな小説です。

 過去、幹どのは吉原会所と老中田沼意次との政争に巻き込まれ、その田沼が雇った手強い刺客が次々に現れたりしましたが、今作ではそんな壮大な背景をとは無関係な、小さな事件がいくつか同時多発するだけで、全体としてのストーリーの筋みたいなまとまりはありません。それでもすっきりとした読後の満足感がある読みやすさはさすが佐伯さんです。この位の読み切り感覚でこのシリーズはちょうどいいような気がします。

 しかし今回驚いたことに、幹どのの前には田沼の刺客ではなく、この世のものではない「魑魅魍魎」が登場してきました。佐伯さんの小説には、将軍クラスが次々に登場するくらい壮大な物語がたくさんありますが、ファンタジー方面にも広がりを見せたのはこれが初めてではないかと思います。これは意外な展開です。が、結局その「魑魅魍魎」については今作では何も解決しないまま。

 過去のいろんな作品で、まさかというような大風呂敷を広げた展開に、見事に落ちをつけてきた佐伯さんであれば、これもきっと次作以降ですとんと落ちがつくはず。さてさて、どうなることやら。

 【お気に入り度:★★★☆☆】