酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

ゆんでめて

ゆんでめて (新潮文庫)

ゆんでめて (新潮文庫)

屏風のぞきが行方不明になり、悲嘆にくれる若だんな。もしあの日、別の道を選んでいたら、こんな未来は訪れなかった?上方から来た娘への淡い恋心も、妖たちの化け合戦で盛り上がる豪華なお花見も、雨の日に現れた強くて格好良い謎のおなごの存在も、すべて運命のいたずらが導いたことなのか―。一太郎が迷い込む、ちょっと不思議なもう一つの物語。「しゃばけ」シリーズ第9作。

Amazon.co.jp: ゆんでめて (新潮文庫): 畠中 恵: 本

 江戸市井ものの時代小説にファンタジーを掛け合わせた独特の世界を描き出し、大人気となっている「しゃばけ」シリーズの第九巻です。これまではハードカバーが発売になるとともに買って読んでいたのですが、今回は色々あって文庫で読むことになってしまいました。そのため前作の「ころころろ」からだいぶ間が開いてしまいました。調べてみたら実に3年4ヶ月ぶりです。

 細かい出来事は何となく忘れてしまっているのですが、登場人物や妖たちのことは良く覚えており、設定も忘れてはいません。三年ぶりとは思えないくらいすんなりと、長崎屋の離れの情景に入り込むことが出来ました。しかし、主人公である病弱な若旦那の一太郎は、私の知らない事件の回想を始めます。

 これはもしかして一巻飛ばして読んでいるのかも?と最初は思ってしまったのですが、諦めてそのまま読み進めていくうちにそうではないことが分かりました。面白いことに今作ではいきなり数年先の未来から話が始まって、だんだんと時間が巻戻っていくのです。なるほど、私の知らない事件は最後の最後に出てくるわけか!と途中で気付いて納得したのですが...

 そう思わせておいて実はそう単純には終わらない、一種のトリックが仕掛けられていました。最後まで読むとそれまで読んできた各エピソードの落ちというか意味がすべて変わってしまうのです。これは一本とられた!とビックリする一方で、ホッとしました。この凝った物語構成と落ちに付け方も、ファンタジーである「しゃばけ」シリーズだから出来ることです。

 でも、ちょっと分かりにくすぎるかな?とも思います。読み進めるに従って何が起きているのかだんだん分かってくるのですが、そうなるとこれまで読んできた部分の意味合いが変わってくるわけで、「あれ?じゃぁさっきサラっと流してしまったあのシーンはどういう意味だったっけ?」などと確認のために何度か行きつ戻りつ、読み直して理解を修正しつつ読み進めなくてはなりません。

 それはそれで、この本を楽しんだことになるのかも知れませんが、あまりに技巧に走りすぎているというか何というか。もっと何も考えずに純粋にこのファンタジーを楽しみたいと思っていると、なんか過去作のようなスッキリとした読後感が得られいことが、ちょっと不満と言えば不満かもしれません。

 それはともかく、今回もいろんな妖達が大活躍。特に小鬼の鳴家(やなり)は文章で読んでいるだけなのにかわいいです。もちろん、表紙絵や挿絵に出てくる柴田ゆうさんのイラストの影響もおおきいです。いい大人(というか、おっさん)なのに、こんな小鬼が自分にも見えたら良いのに... とすっかり夢の世界に浸り混んでしまいます。

 【お気に入り度:★★★★☆】