酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

鼠、夜に賭ける

鼠、夜に賭ける (角川文庫)

鼠、夜に賭ける (角川文庫)

“鼠”こと次郎吉が酒を飲んでいた店に、抜身を手にした男が入ってきた。どうやら人を斬ってきたらしい。男は「しくじった…やり直しはできん。俺はもう終りだ。けりをつける」と言い残すと、刀で首を斬って自害した。一方、騒ぎに巻き込まれた店で働く娘おようは、自害した男が落としたあるものを懐に忍ばせ、家路を急いでいた―。盗賊・鼠小僧が悪をくじく痛快エンタテインメント時代小説。絶好調のシリーズ第4弾。

Amazon.co.jp: 鼠、夜に賭ける (角川文庫): 赤川 次郎, 宇野 信哉: 本

 赤川次郎さんによる時代小説、鼠シリーズの第四巻です。今年に入って文庫化が急速に進んでいます。そして引き続き来月中には第五巻の発売もアナウンスされているところです。オリジナルの単行本も2004年に発表された第一巻から数年のブランクを経て昨年に集中的に発行されたらしいのですが、それも最近の時代小説ブームに影響されてのことなのでしょうか。いずれにしても時代小説ファンとしては嬉しいことに違いはありません。

 さて、通称"甘酒屋"と呼ばれ、その正体は鼠小僧の伝説で有名な"鼠"こと次郎吉と、その妹で次郎吉に負けず劣らず"凄腕"な小袖、そして町医者として人々に尽くす女医の千草、その助手で天真爛漫なお国などなど、個性的な面々が活躍するミステリーものです。

 もちろん、次郎吉は同心でも岡っ引きでも何でもないし、カチカチの正義漢ではありません。というかむしろ逆。とは言え、伝説の鼠小僧同様に義賊としての心意気はあって、怪しげな金を蓄えた武家しか狙いません。それにしても、次郎吉はのらくらしすぎているのですが、何というか私はこういう曰くを持ったアンチヒーローが大好きなのです。

 さて今作も六話が収められています。どれも表題が洒落ていて読んでみたいと思わせてくれるのです。例えば第六話の「鼠、猫に訊く」などは何がなにやら分からなさすぎて面白そうです。中身はいつの時代にもありそうな男女の恋愛のもつれに関する事件で、最後の落ちはビックリするようなどんでん返しの連続。もちろん猫が事件の鍵となっています。このあたりは赤川次郎さんの得意分野なのでしょう。

 そして表題作の「鼠、夜に賭ける」も似たような男女の感情のもつれに関する事件。これまた落ちに驚かされました。いや、正直なところあまりにも美しくまとまりすぎて何とももしっくりこなかったのは、私の心が汚れているからかも知れません(A^^;

 その他は、大名家というか武士に関わる事件が多かったように思います。いや、過去作もこういうものだったかな? 武家は仕来りとか面子とか、理屈とは別の力が働きやすく何かと不思議なドラマが起こりやすいわけです。そして貧乏な町人達に対して力を持つ「強きもの」として、鼠が庶民の代わりに鼻柱をくじく相手でもあり、そう言う意味では弱者が強者をやっつける爽快な物語りでもあります。

 でも、それよりもむしろ次郎吉自身と同じような町屋の人々、長屋の庶民達やせっせと働く商人達、そしてそこから生まれてくる江戸文化の息吹が感じられるようなお話しの方が良いのにな、と思ってしまいました。町人達の間にも事件の種はたくさんあったはず。男女の問題はもちろんその筆頭。あとはお金でしょうか。

 そして次郎吉が本職で腕を振るう姿もちょっとは見てみたい気もします。今作ではそう言ったシーンが全く登場せず、次郎吉が本当は何ものなのか忘れそうになりました。

 ということで、ネガティブな感想ばかり書いてしまった気がしますが、実は読後感は悪くありません。いえ、これまでの三巻と同様に期待を裏切らない面白さで、あっという間に読んでしまいました。そして次の第五巻が待ち遠しいです。

 【お気に入り度:★★★★☆】