酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

三世相

三世相―並木拍子郎種取帳 (時代小説文庫)

三世相―並木拍子郎種取帳 (時代小説文庫)

貧乏人にも親切だと評判で、診察にもかなりの信用があった医者・良庵が殺された。人気狂言作者並木五瓶の弟子・拍子郎と料理茶屋の娘・おあさは、半月前に占断所で偶然、良庵の女房を見かけていた。早速、拍子郎は事件に首をつっこむことに…(「三世相」より)。表題作他全五篇を収録。江戸の芝居町を舞台に、男と女の情の濃やかさと、人生の奥ゆきを余すことなく描いた傑作捕物帳シリーズ、待望の第三弾。

 前回読んだ「二枚目」の続編、並木拍子郎種取帳シリーズの第三巻です。今作でも相変わらず江戸の人々の様子を観察しながら、狂言作者の師匠である並木五瓶に面白そうな話のネタをせっせと持って行く、拍子郎の活躍を中心に描かれています。

 その拍子郎が街角で聞き込んできた"ちょっと面白そうな話"に深入りしすぎて、その話自身に巻き込まれていくわけです。その過程を通し、事の真相や結末が明らかになっていくという、半ば捕物帖的な構成はこれまでと変わらないのですが、今作からはその裏に少しずつ流れていた横糸の物語が大きくなってきました。

 拍子郎は自分が集めてきた様々な人間模様の中に、自分のこれまでの人生とこれからの人生を重ねて、進むべき道に迷います。自分をひたすらに隠し続ける御殿女中の淡い恋、真面目さが祟って女にのめり込み破滅を招く男、親と子の絆、ころころ変わる女心と、男の浮気性、占いが決める人生、そして身分違いの恋。

 それらの話の"種"は決して他人事とは思えなくなり、モラトリアムの期間は早晩終わりを迎えることに気がついてしまったのです。

 表題作の「三世相」とは江戸時代に流行った占い本のこと。たかが占い、当たるも八卦あたらぬも八卦、と言いながらもいつも人々の話題に上り、どこか気になってしまうと言うのは今の時代も変わっていません。そして占いも行き過ぎると事件に発展してしまうあたりも同様です。そんな人々のドタバタ劇を描きつつも、人間の心の奥底をえぐり出すような落ちにドキッとしてしまいます。

 もちろん、いつの時代も世の中で占われることの多くは、男と女の問題に違いありません。拍子郎の悩みを見事に暴いた占い師は、本当にいかさま師だったのでしょうか?

 最終話の最後で短い旅から戻る拍子郎は「人生は芝居のようだ」と思います。いざ江戸に向かう舟の中で彼は何かを決断したのかもしれません。

 ということで、次作では大きな進展がありそうな予感。すでに第四巻も購入済みなのですぐにでも続きを読みたいのですが、シリーズものはゆっくりと読み進めた方が楽しめるような気がするので、少し間をおいてからに仕様と思います。

 【お気に入り度:★★★★☆】