酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

F1日本GP2012 決勝

 どことなく夕方の雰囲気が漂い始めた午後3時、ようやくフォーメーションラップがスタートしました。一周ゆっくりトラックを回った後、いよいよ決勝のスタートです。そしてそれから1時間半が過ぎた頃、鈴鹿の現場にいた私たちは「魔法の瞬間」を体験することになります。これまでに見てきた日本GPでは、一番ドキドキハラハラした後に歓喜を味わうことが出来た最高のレース。カメラのファインダーを覗くのももどかしく、ひたすら目の前に白いマシンが無事に現れるのを待ち続けた53周でした。

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小林可夢偉/ザウバー C31 Ferrari
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F16, ISO200, -0.7EV, AWB, 240mm)

 決勝の観戦場所は今年もEスタンドの最上部にしました。この日は風が強く、特にこの場所は風の通り道になっているため、強い日差しを浴びていても寒く感じるほど。左にはメインストレートとグランドスタンドの一部、正面には2コーナーからS字を抜けて逆バンクに差し掛かり、ダンロップへ消えていくところまで、鈴鹿の東コースの半分以上が見渡せます。そして昨年に引き続き快晴で、遙か彼方には伊勢湾の海まで綺麗に見通せる絶好の天気でした。

 レース状況は正面の大画面スクリーンで確認できます。場内放送はレースが始まってしまえばエンジン音にかき消され、友人が持っていたiPhoneのライブタイミングアプリは、混雑のためか回線がまともに繋がりませんでした。でも、自分の目で見ているコース上の様子と、大画面スクリーンの国際映像だけで十分に状況は把握できます。

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F1セーフティーカー、セバスチャン・ベッテル、小林可夢偉、ジェンソン・バトンの隊列
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/5005sec AUTO (F7.1, ISO200, -1.0EV, AWB, 93mm)

 まず、小林可夢偉にとっての第一の関門と思われていたスタートは完璧に決めてウェバーの前に立ちました。最初の周回では私たちの目の前にはベッテルに続く2位のポジションでやって来たときには、周囲のスタンドは大歓声にどよめきます。1コーナーから2コーナーにかけての事故により、すぐにセーフティーカーが導入されますが、わずか2周ほどですぐにリスタート。そこでもなんとかポジションを守り切りました。

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ロマン・グロージャン/ロータス E20 RENAULT
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F16, ISO200, -1.0EV, AWB, 330mm)

 スタートでまた事故を引き起こしたのはグロージャン。イン側のラインを守ってトリッキーな動きは今回はしていなかったにもかかわらず、2コーナーの進入でウェバーに激しく追突してしまいました。後に映像で見たところ、かなり激しいクラッシュに見えましたが、両者ともになんとかレースが続行できたのは不幸中の幸いです。一方このクラッシュのあおりを受けたロズベルグがリタイアしてしまいました。

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マーク・ウェバー/レッドブル RB8 RENAULT
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F16, ISO200, -1.0EV, AWB, 290mm)

 2番グリッドからスタートしたのに、小林可夢偉にかわされて、挙げ句の果てにグロージャンに追突されてしまったマーク・ウェバー。幸いにセーフティーカーが入ってるうちに、最下位でコースに戻るも、あまりに鈴鹿のオフィシャル達の作業が早すぎて、隊列に追いつく前に再スタートとなってしまいました。それでも最終的にポイントを獲得したのだから、さすがはレッドブルです。

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小林可夢偉/ザウバー C31 Ferrari
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F13, ISO200, -1.0EV, AWB, 500mm)

 第一スティントをソフトタイヤで快走する小林可夢偉。ベッテルにはジワジワと離されていきますが、後続も寄せ付けず2位単独走行に持ち込みつつありました。レースペースは十分ありそうですし、このままトラブルがなければ... と期待がいやが上にも高まります。

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キミ・ライコネン/ロータス E20 RENAULT
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F16, ISO200, -1.0EV, AWB, 450mm)

 スタート直後のストレート上で、アロンソと激しいポジション争いをして接触してしまったキミ・ライコネン。アロンソはリアタイヤがパンクしてコースアウトし、リタイアしてしまったので私たちの前にやって来ることはありませんでした。一方のキミは幸いにダメージ少なくそのままレース続行。最終的に5位に入りました。

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小林可夢偉/ザウバー C31 Ferrari、ダニエル・リカルド/トロロッソ STR7 Ferrari
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F13, ISO200, -1.0EV, AWB, 410mm)

 レースが大きく動いたのは1回目のピットイン。小林可夢偉の後ろを走っていたジェンソン・バトンがアンダーカットを狙ってか、かなり早めにタイヤ交換を行います。これにザウバーは即座に反応し、バトンに前を行かれないようにすぐに小林可夢偉のタイヤを交換します。
 しかし、コースに復帰したところに待ち構えていたのはトロロッソのダニエル・リカルド。前を塞がれてしまいました。何とかヘアピンでかわしたものの、このタイムロスが大きく結果を左右することになります。

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フェリペ・マッサ/フェラーリ F2012 Ferrari
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F8, ISO200, -1.0EV, AWB, 450mm)

 小林可夢偉とジェンソン・バトンがダニエル・リカルドに引っかかってる間にステイアウトを選び、数周遅れでタイヤ交換したフェラーリのフェリペ・マッサは小林可夢偉の前でコース復帰してしまいます。これで小林可夢偉は3位に落ちてしまいました。しかし、今のフェラーリだったら捕らえる力はあるはず。しかも相手はアロンソではなくマッサなのだから!と思って、いや願っていました。

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ジェンソン・バトン/マクラーレン MP4-27 Mercedes
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F14, ISO200, -1.0EV, AWB, 240mm)

 後ろをひたひたと追いかけてくるジェンソン・バトン。レース前に小林可夢偉が一番警戒していたドライバーです。ペナルティがあってスタート順は8位に沈んでいましたが、スタート後のゴタゴタを切り抜けていつの間にか小林可夢偉の真後ろにつけていました。もちろんペースも悪くなく不気味な存在です。結局レース全体を通して、小林可夢偉はこのバトンと戦い続けることになります。

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セバスチャン・ベッテル/レッドブル RB8 RENAULT
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F10, ISO200, -1.0EV, AWB, 450mm)

 2位以下の争いを尻目に、一人トップを快走するセバスチャン・ベッテル。異次元の速さでどんどんと後続から離れていきます。さすがは現代の鈴鹿マイスター。昨年はポールを取りながらもグズグズのレースでしたが(それでもチャンピオン決定の重要なレースでした)、今年はまた2年前の強さが帰ってきたかのようです。

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ミハエル・シューマッハ/メルセデス F1 W03 Mercedes
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F20, ISO200, -1.0EV, AWB, 290mm)

 前戦のクラッシュによる10グリッド降格のため、ほとんど最下位付近からスタートしたミハエル・シューマッハでしたが、中段まで上がってきてポイント争いをしていました。結局最後の最後でトロロッソを抜けずに11位に終わってしまいましたけど。これが本当に最後の鈴鹿となるはずです。

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小林可夢偉/ザウバー C31 Ferrari
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/200sec AUTO (F18, ISO400, -1.0EV, AWB, 500mm)

 2回目のピットインは小林可夢偉がバトンに対して先手を取りました。アンダーカットという意味もあったかも知れませんが、むしろ第2スティントで履いたタイヤが傷んでタイムが落ちてきて、バトンに追いつかれ始めたためにやむなく交換したようにも思えます。それでもこの早めのタイヤ交換のおかげでバトンが2回目のタイヤ交換を終えても順位変動はなし。この時点で小林可夢偉は、バトンに対して十分なギャップを築いたかに思えました。
 時刻は午後4時を回り、コースには夕日が差しています。日陰と日向のコントラストが強くなります。白いザウバーのマシンもだいぶ汚れてきました。

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PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/400sec AUTO (F8, ISO200, -1.0EV, AWB, 240mm)
 天候は終始晴れ。急激に夕暮れの雰囲気になるなか、鈴鹿のスタンドはどこも満席です。その向こうには青い海も見えています。鈴鹿サーキット自体は決して海沿いにあるというわけではないのに。
 今年は決勝で10万3千人、3日間で延べ20万以上のお客さんが入ったそうで、いずれもやはり好天だった昨年よりもさらに少し増加したそうです。まだまだ日本のF1ファンも捨てたものではありません。

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セバスチャン・ベッテル/レッドブル RB8 RENAULT
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/125sec AUTO (F11, ISO200, -1.0EV, AWB, 240mm)

 段差ノーズがいろいろ言われた今年のマシンですが、レッドブルは本当に美しいです。「速いマシンは美しい」というのは究極の機能美だと思います。セバスチャン・ベッテルは結局そのままぶっちぎりのポールtoウィンを飾りました。2連勝で今季3勝目。アロンソがノーポイントに終わったため、ポイントランキングでは4ポイント差までアロンソに詰め寄りました。一時はダメかと思われましたが、今の勢いを考えれば、チャンピオン筆頭候補です。

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フェリペ・マッサ/フェラーリ F2012 Ferrari
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/200sec AUTO (F13, ISO400, -1.0EV, AWB, 240mm)

 そしてまさかのマッサ。11番グリッドからスタートして2位に入るという素晴らしいレース。2年ぶりの表彰台です。もはやフェラーリのシートは無いと思われていましたが、どうなることでしょうか。遅すぎたという気もしますし、こういうレースがまだ出来ることを証明したとも言えます。作戦の妙で2位に上がっただけと思っていましたが、実際に走ってる姿を見ているととても速くて、小林可夢偉もバトンも追いつけそうにありませんでした。

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小林可夢偉/ザウバー C31 Ferrari
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/160sec AUTO (F11, ISO400, -1.0EV, AWB, 500mm)

 小林可夢偉は最終スティントが長くなり、レース終盤に次第に再びバトンに追いつかれ始めます。実際に見ていて周回ごとにギャップが縮まってくるのが分かります。一体レースはあと何周あるのか?大画面スクリーンに表示された小さな数字はなかなか見えず、ライブタイミングは上手く動かず、ハラハラドキドキの終盤戦。はやく終わってくれ!とこんなに願ったレースもありません。
 4位でも十分な成績ですが、3位とは天と地ほどの差があります。いえ、今回の小林可夢偉にとって4位では無意味で、何としても3位表彰台が必要でした。周囲の大砲を抱えた見ず知らずの面々も、もはやファインダーを覗くことはなくレースを見つめ、声を限りに叫んで手を振っています。

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小林可夢偉/ザウバー C31 Ferrari
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/200sec AUTO (F14, ISO400, -1.0EV, AWB, 240mm)

 そして最終ラップ。1コーナーはなんとか順位を守ってクリアしてくるのが遠くに見えました。しかしバトンはもうほとんどぴったりと真後ろに付いています。目の前を駆け抜けていく2台のマシンがダンロップコーナーに消えていきます。正面の大画面スクリーンに映る国際映像は、ベッテルとマッサがチェッカーを受けるシーンに変わってしまいました。場内実況は相変わらず聞こえず、ライブタイミングアプリはやっぱり更新されません。
 デグナーで飛び出していないだろうか? ヘアピンでインに飛び込まれていないだろうか?スプーンをミスしてないだろうか? 最後のシケインは... と気が気ではありません。祈るようにゴールシーンを待っているとき、左手に少しだけ見えるホームストレートを白いマシンが駆け抜けていくのが一瞬だけ見えたとき、飛び跳ねながら「行った!今行った!」と意味不明な雄叫びを上げてしまいました。

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小林可夢偉/ザウバー C31 Ferrari
PENTAX K-5, SIGMA 50-500mmF4.5-6.3, 1/200sec AUTO (F11, ISO400, -1.0EV, AWB, 170mm)

 数秒遅れで国際映像に小林可夢偉がバトンの前を守り切り、3位フィニッシュした映像が映り、鈴鹿サーキット中がワッ!とどよめいて歓喜に埋もれました。見知らぬ周囲の人々と喜び合い、誰もが拳を振り上げ、泣いている人もたくさんいます。私も何か喋ると泣き出しそうで口をぱくぱくさせるのがやっと。感情がこんなに素直に吹き出してくる感覚は、大人になってから久しく忘れていたものです。
 いつもならレースが終わる少し前から帰途につく人が現れ始め、終わった瞬間には一斉に席を立つ観客も、今回ばかりは帰らずに大画面スクリーンを食い入るように見ていました。そしてどこからともなくカムイコールが起こり、鈴鹿サーキット中を包み込みます。

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 これはまさしく「魔法の瞬間」でした。これを体験できたことが本当に幸せで、F1ファンをやってて良かった、毎年鈴鹿に通ってきていて良かった!と思いました。小林可夢偉には次は2位、そして優勝を狙って欲しいと思います。
 そしていつかは日本人がワールドチャンピオンを取るときに、同じような「魔法の瞬間」を体験してみたいと思います。

 長々と続けてきた2012年F1日本GP観戦記は以上です。

※他の写真も含めFlickrにまとめてアップロードしてあります
 F1日本GP 2012 -a set on Flickr