下町ロケット

投稿者: | 2011年12月30日

下町ロケット

下町ロケット

第145回(平成23年度上半期) 直木賞受賞
その特許がなければロケットは飛ばない――。
大田区の町工場が取得した最先端特許をめぐる、中小企業vs大企業の熱い戦い!かつて研究者としてロケット開発に携わっていた佃航平は、打ち上げ失敗の責任を取って研究者の道を辞し、いまは親の跡を継いで従業員200人の小さな会社、佃製作所を経営していた。
下請けいじめ、資金繰り難――。
ご多分に洩れず中小企業の悲哀を味わいつつも、日々奮闘している佃のもとに、ある日一通の訴状が届く。相手は、容赦無い法廷戦略を駆使し、ライバル企業を叩き潰すことで知られるナカシマ工業だ。否応なく法廷闘争に巻き込まれる佃製作所は、社会的信用を失い、会社存亡に危機に立たされる。そんな中、佃製作所が取得した特許技術が、日本を代表する大企業、帝国重工に大きな衝撃を与えていた。
会社は小さくても技術は負けない――。
モノ作りに情熱を燃やし続ける男たちの矜恃と卑劣な企業戦略の息詰まるガチンコ勝負。さらに日本を代表する大企業との特許技術(知財)を巡る駆け引きの中で、佃が見出したものは? 夢と現実。社員と家族。かつてロケットエンジンに夢を馳せた佃の、そして男たちの意地とプライドを賭した戦いがここにある。

 たまには時代小説ばかりではなく現代物も読んでみようと思い立ち、今年上半期の直木賞受を賞作したというこの本を読んでみました。と言うか、これまた友人からお勧め本として貸してもらったものです。現時点では単行本しか発行されていません。通勤時に持ち歩くには重すぎるので、休日の暇な時間に読み始めました。

 「すごく面白い」とは聞いていたのですが、確かに読み始めると止まらなくなってしまいました。夜中の2時過ぎまで本を読んで過ごしたなんてのは久しぶりのことです。結局二晩で完読。暇つぶしだったにしても、この一気に読ませてしまうストーリー力はなかなかのものです。

 内容はと言えば、タイトルからもある程度想像つくかとは思いますし、上に引用した内容紹介を読めばさらに明らかなのですが、高い技術力を持った日本の中小企業がロケット打ち上げに挑戦する物語です。実際、日本のあちこちにある小さな町工場の中には、世界中でもそこでしか作れない超ハイテク製品を作っている、という話は時折耳にすることがあります。

 今年、東北の広い地域が東日本大震災で壊滅的な被害を受けたことで、様々な業界のサプライチェーンが崩れたことは記憶に新しいですが、それは大企業の工場被災だけでなく、無名の中小企業が操業停止したことの影響も大きかったはず。中には代用がきくものも代用がきかないものもありました。伝聞ではありますが、とある小さな塗料材料メーカーが創業できなくなり、世界中の自動車メーカーから特定の色のクルマが消えたということです。たかが塗料。されどその色を再現するためには、東北のとある工場の製品以外に代用がきかないという例なのでしょう。

 閑話休題。この物語はロケットのエンジン技術に関する、東京大田区の小さな弱小メーカーと、超大企業の駆け引きの物語です。特許係争を中心に、大企業の身勝手な論理に翻弄され、戦い続ける弱小中小企業。主人公はそのロケットに挑戦する中小企業の二代目社長。敵は勝手なことをふっかけてくる大企業にとどまらず、資金繰りを握られた銀行然り、社内の反対勢力然り。そして問題は家庭内にも及びます。

 次から次へと難問にぶつかる主人公たち。それら一つ一つが解決していくドラマは痛快きわまりなく、その世界に引き込まれた読者の溜飲も大いに下がるというものです。そういう意味ではストレス解消効果もあるかも。

 と言うことで、読後感も爽快で満足ではあるのですが、どうもそれは「良い本を読んだ!」ということではなく、ただ「面白いお話を読んだ」というところ止まりでもあります。登場する人々の善悪がきっちりと別れすぎていて、敵は徹底的に悪意を持った人々だし、この手の物語にありがちなように、主人公達はあまりにも愚直過ぎるきらいもあります。

 読後にこの本を貸してくれた友人と話した結果、結論として得たのは「この本は現代物の山本一力風。ただし文章の美しさはなし」というもの。大いに誤読しているかも知れませんが、私の率直な印象はそんなところです。ただし、上に書いたように読んでいる間はきっちりと楽しめることは確かで、読む価値は大いにありだと思います。

 【お気に入り度:★★★★☆】