酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2011年F1最終戦 ブラジルGP

 長いようで短かったシーズンの締めくくりの舞台は、日本から見て地球の裏側、ブラジルはサンパウロ郊外にあるインテルラゴス・サーキットです。昨年の最終戦はアブダビでしたが、今年はまたブラジルが最終戦に戻ってきました。やはり、ここは最終戦が似合います。過去何度もここで劇的なチャンピオンシップ決定のレースが行われました。
 今シーズンはすでにチャンピオンも決定しており、そういった緊張感はありませんが、テレビ画面でインテルラゴスの見慣れた風景を見ると「最終戦なんだなぁ」という寂しさ混じりの実感がわいてきます。

 天候がイマイチぴりっとせず、急に雨が降ったりして荒れるのもブラジルではよくあること。今年も天気予報は微妙で、ウェットレースになる確率が半々くらいありました。マシンセッティングやタイヤ戦略が悩ましいところです。そしてもちろん今シーズンの常として、やはりタイヤの使い方がレースを決する一番の要素となります。
 一年の締めくくりとして、今回は私が今年注目していた、注目させられていた4人のドライバーを取り上げたいと思います。以下、順序はその注目度順に並べてあります。

小林可夢偉/ザウバー

 いつの間にか彼を応援してしまうようになったのは、やはり「日本人だから」なのでしょう。それが合理的な理由かどうかはわかりません。しかし中嶋悟以降、たくさんの日本人ドライバーが超えられなかった壁を、彼は一つ大きく越えていると思います。それは今回のレースぶりにも如実に表れていて、一言で言えば「レースの組み立てがうまい」という点に尽きます。

IMGP8556
2011年10月7日, 日本GP, フリー走行2回目, 小林可夢偉, Sauber Ferrari C30

 予選が悪いのはマシンのせいだったり、不運だったり、作戦が悪かったり、彼自身のミスだったこともあるでしょう。15番手前後というような、ほとんど下位とも言えるポジションからスタートし、難しいタイヤ戦略を成功させ、ライバルとのバトルもしっかりとクリーンに征して、10位以内でフィニッシュさせる力は、単なるまぐれや運ではなくて、彼自身のレースの上手さとしかいいようがありません。同じような力強いレースを今シーズン何度も見てられてきました。
 今度こそは... と前評判の高い日本人ドライバーたちが、結局F1の高すぎる壁にはじき返される姿を見て、何度失望したことでしょう。そこへ2008年末にひょっこり現れた小林可夢偉。最初は正直なところ「この人誰?」状態でした。そしてまた日系ワークスの金と政治力で、無理やりシートを確保しただけと思ったのも事実です。
 しかしこの2年、それらの日系ワークス、スポンサーはことごとくF1から去って行きました。彼は今、持ち込みスポンサーによるのではなく、実力だけでF1のシートを確保している数少ないドライバーの一人です。8年間に渡って数々の害悪をまき散らし、非常にみっともない姿を晒して尻尾を巻いて逃げていった日本最大の自動車メーカーが、唯一F1界に貢献したことといえば、小林可夢偉をF1のシートに座らせたことです。
 今シーズン、確かに浮き沈みがありましたが、9回の入賞で合計30ポイント獲得。文字通りファースト・ドライバーとしての責務を果たし、ザウバーのコンストラクターズランキング7位獲得に大きく貢献しました。今回の最終戦はその象徴のようなレース内容だったと思います。来年、ザウバーのマシン開発が心配ではありますが、メキシコ資本の支援が変わらなければ、予算は今年よりも増えるはずです。再来年以降のステップアップを目指して、来年も今年以上に頑張って欲しいと期待しています。

セバスチャン・ベッテル/レッドブル

 ポールポジション15回、優勝回数11回、表彰台17回という堂々たる成績で2年連続チャンピオンを獲得。今回のレースでは新品のギアボックスがレース開始早々に壊れるというトラブルが発生。無線ではしつこいほどに「ショートシフトしろ!」とチームから命令されていました。結局どんなトラブルだったのか分かりませんが、ベッテルはそれほどタイムを極端に落とすことなく、マシンをゴールまで運びました。トップの座はウェバーに譲りましたけど。

IMGP8242
2011年10月7日, 日本GP, フリー走行2回目, セバスチャン・ベッテル, RedBull Renault RB7

 これについては「チームオーダーではないか?」という疑惑が上がっています。もちろん、今年はチームオーダーは禁止されていないので、予定されていたことであっても問題はありません。もしチームの意志による順位入れ替えだとすれば、むしろ無意味に手の込んだことしたなぁ、と思います。
 レース後の会見でこの話題も出ましたが、まったく関係ないはずのバトンの一言が、この論争を終わらせるのに適切ではないかと思います。バトン曰く、「トラブルを抱えたなら抱えたなりに走り方を工夫して、タイムロスを最小限にして走ることが出来るから、我々は高いサラリーをもらえるんだ」と。なるほど、F1ドライバーは世界中に24人しかいないわけです。
 F1ファンの間では「彼はやると思ってた」と言う人がほとんどでしょう。私ももちろんその一人です。ザウバーでデビューし初ポイント獲得。トロロッソで初優勝を飾り、まだチャンピオンチームではなかったレッドブルに抜擢されたのはわずか一昨年のこと。その時点でベッテルには何か感じさせるものがありました。多くの人の予感どおり、それが今では堂々たる2年連続チャンピオンです。今年はチャンピオンシップ的にはベッテル圧勝でしたし、予選は誰も歯が立ちませんでしたが、一つ一つのレースを見れば、内容的にそれほど異次元の独走体制だったわけではありません。
 最高ではないマシンに乗せた場合どうなるか? 1対1のバトルになるとどうなるか? 先行逃げ切り以外のレースが足りない、などなど、ベッテルの真の力を疑う声はまだまだあります。それはそうなのかもしれません。でも私は、彼はここ10年で最高のF1ドライバーだと思っています。たとえ来年勝てなくなったとしても、その評価は変わりません。多分。

ジェンソン・バトン/マクラーレン

 今回マクラーレンのマシンはソフトタイヤとの相性が猛烈に悪く、スタート直後早々にアロンソにあっさりと抜かれたあと、レース前半はグズグズの状態。しかし、2回目のタイヤ交換でミディアムタイヤを履いた途端、まるで別のマシンのようにペースが改善し、猛追撃を開始します。結局アロンソを抜き返したものの、レッドブルに追いつくには遅すぎました。最終的にはギリギリ表彰台に滑り込みました。

IMGP9451
2011年10月8日, 日本GP, フリー走行3回目, ジェンソン・バトン, McLaren Mercedes MP4-26

 シーズン前のテスト結果は散々で、今年のマクラーレンは終わったといわれていましたが、レースが始まってみれば、いつの間にかレッドブルに対抗できるのはマクラーレンだけ、と言う状態になっていました。それでも今回のレースのように、マクラーレンのマシンはタイヤやコンディションに対する挙動の変化は激しく、浮き沈みの大きいじゃじゃ馬ぶりを見せていました。それをうまく乗りこなせたのは、ドライビングがスムーズで安定しているバトンだからなのかもしれません。ドライバーとしてもじゃじゃ馬なハミルトンは振り落とされてしまったのかも。
 F1でのキャリアが12年になるバトンはもはや堂々たるベテランです。過去ホンダのマシンに長く乗り、プライベートでも日本とも関わりが深いためか、日本での人気も上々です。でも、彼が非常に速いドライバーだということは確かですが「チャンピオンの器」かどうか?ということに関しては、懐疑的な人も多いようです。そういう私も彼の2009年チャンピオンは棚ぼただと思っている一人です。
 しかし、1年限りだったブラウンGPのマシンが奇跡だったことは、バトン自身がよく分かっていたのでしょう。ブラウンGPに2年目はないと見切りをつけ、マクラーレンに電撃移籍。しかしそれでも、名門マクラーレンに彼の居場所はないのではないか?との疑念は拭い去れませんでした。少なくとも昨シーズンまでは。
 しかし今シーズン、3回の優勝と12回の表彰台、チャンピオンシップ2位を獲得という結果のみならず、一つ一つのレース内容を見ても、バトンは「チャンピオンの器」があることを証明した1年だったのではないかと思います。もし来年、一貫した安定性を持ったマシンが与えられれば、2009年の再来は大いにありえることでしょう。ハミルトンの憂鬱の原因は失恋だけではないのかもしれません。

ミハエル・シューマッハ/メルセデスGP

 ドタバタのレースが多かった今シーズン。その締めくくりの一戦もやはりドタバタに終わりました。予選ペースが改善し、安定してシングルグリッドからスタートが切れるようになりましたが、それでも他のドライバーと絡むことが多いのはなぜなのでしょう? 単に運が悪いのか、彼のドライビングスタイルが引き起こしていることなのか。しかし、今回のセナとの接触は、明らかにセナの不必要なブロック行為が原因です。即座にペナルティがセナに出されたのも頷けます。

IMGP1531.jpg
2011年10月9日, 日本GP, 決勝, ミハエル・シューマッハ, Mercedes MGP W02

 ミハエルのレースは結局その接触によって台無しになり、完走はしたもののポイント圏からはるかに下位でフィニッシュ。何も良いところがないレースとなりました。しかし今回に限らず、誰かと接触した他のレースでも、後のコメントは比較的穏やかです。今回も「仕方がない。彼の経験不足によるものだろう」と、まるでTV解説者のようなコメントを残しています。
 7回のチャンピオン経験者にして、現役最高齢のドライバー。私に取って全盛期は一番嫌いなドライバーでした。勝利への異常な執着が鼻についたのです。レースは参加者だけのための勝ち負けを争うゲームではなく、何千万人という全世界のファンに見せるためのショーでもあることを考えていないかのような、自分勝手な行動が多いように感じられました。それこそ、相手に当ててリタイアに追い込んででも自分の勝利を勝ち取ろうとする行動も何度か見られたものです。昨年はまだその片鱗が残っていましたが、今年はレース内容が非常にクリーンになりました。
 そのせいでしょうか、嫌いだったはずなのに、今年は何かと気になるドライバーとなってきました。うっかりするといつの間にか応援していたりします。もちろん、小林可夢偉とポジションを争ってる場合はその限りではありません。しかし残念ながら、メルセデスはザウバーよりも圧倒的に速くなり、後半戦ではもはや可夢偉とシューマッハが絡むこともなくなりました。
 彼の2度目の引退はそう遠い将来ではないはずですが、歳を取って今シーズンのように成熟したレースぶりを見せてくれるのであれば、たとえこのままチャンピオンを再び取れなくても、彼の伝説的キャリアに傷はつかないのではないかと思います。もう少し上位で、レースやチャンピオンシップをかき回してくれると面白くなるのではないかと思います。それ以上になっては困りますけど。

 ということで、今シーズンも終了。他のドライバーやチーム、DRSやKERSなどについても言いたいことはいっぱいありますが、それはここで偉そうに書くのではなく、お酒の席での与太話として取っておこうと思います。そしてもちろんストーブリーグは始まっており、来年はまたドライバーの入れ替えが起こります。恐らく来年は、チャンピオン経験者が今年からさらに増えて6人になりそうです。今から開幕が楽しみです。

 次のレース、2012年の開幕戦は14週間後、オーストラリアはメルボルンで開催されます!

 なおブラジルGPの結果はこちらです。また、2011年ドライバーズ・チャンピオンシップの結果はこちら、コンストラクターズ・チャンピオンシップの結果はこちらです。