闇夜の梅

投稿者: | 2011年9月9日

闇夜の梅 梟与力吟味帳 (講談社文庫)

闇夜の梅 梟与力吟味帳 (講談社文庫)

蓮の花咲き乱れる不忍池の畔―。思い人の伊助に、鳥居耀蔵の屋敷の絵図面を託した女は、鳥居腹心の部下・中嶋勘解由の娘だった。蛮社の獄に散った渡辺崋山の仇を討つべく、不穏な動きを見せる伊助ら浪士を探る逸馬は、背後に激化する鳥居と水野越前守の対立を見る!大好評文庫書下ろしシリーズ第11弾。

 久しぶりの井川香四郎さんの梟与力シリーズの新刊です。数えてみるとこのシリーズももう11巻目。町人出身で吟味方与力まで上り詰めた藤堂逸馬と、その幼なじみ、信三郎と八助ら三人の青春活劇… というにはちょっと登場人物達が大人過ぎるかも。しかし子供時代から変わらない関係を保つ彼らが、この物語の中で醸し出す雰囲気はまさにそれ。登場人物の年齢的にまさに”青春真っ只中”と言える佐伯泰英さんの鎌倉河岸よりも、雰囲気的な若さを感じます。うむ、なんかおじさん臭いことをいきなり書いてしまった気がしますが(A^^;

 吟味方与力が主人公とあれば、基本的には捕物なわけで、ストーリーはかなり明確な勧善懲悪ものです。とはいえ、単純な大悪党が出てきてそれを追い詰める正義の味方… という単純さではなく、より良い世の中のために、人は、社会はどうあるべきか?みたいなもっと大きな枠組みでの善を説いているようです。でもその青臭さが鼻につかないのは、彼らが誰一人として聖人君子でもなく、スーパーマンではないから。

 そして実際に物語は幕閣を揺るがす権力闘争に踏み入っており、世の中をどう動かすかという大きな話しに踏み込んでいるのです。今作では特にその色が鮮明になってきました。妖怪と呼ばれた南町奉行鳥居耀蔵と、方や妖怪と戦う正義の味方、遠山影元の対立はシリーズ当初から根底にあったのですが、今回は町奉行同士のつばぜり合いに止まらず、とうとう時の幕府最高権力者、老中の水野忠邦を巻き込んだクーデターへと進んでいきます。その裏に暗躍したのはもちろん、”妖怪”の仕業に違いありません。しかし、話が込み入ってきた分、娯楽小説としては難解になってきた面もあります。

 それにしても、江戸時代の政治を扱った小説では、田沼意次とこの鳥居耀蔵は必ず悪役として登場します。江戸時代きってのインテリであった、林述斎のもとに生まれたという出身に高いプライドを持ち、幕閣では実力と策略を持って人を蹴落としながら出世し、権力の頂点を狙ったこの人物の人生は波乱万丈に満ちていて、物語としてなかなか魅力的ではあります。失脚してからも生き延び、明治時代を見た鳥居耀蔵はどう思ったでしょうか? なぜだかこの人に俄然興味が出てきました。

 【お気に入り度:★★★☆☆】

闇夜の梅」への2件のフィードバック

  1. 滝澤

    ネットサーフィン中の通りかかり者です。
    もう読まれているかも知れませんが、晩年の鳥居耀蔵が出てくる小説に、
    『黒牛と妖怪』,風野真知雄はいかがでしょう?

  2. Hi

    ○滝澤さん、
    コメント&本の紹介ありがとうございます!
    「黒牛と妖怪」は未読です。明治期の鳥居耀蔵が出てくるとなれば、是非読んでみたいと思います。

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