酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2011年F1第9戦 イギリスGP

 「伝統の」という枕言葉がつくレースはシーズン中にいくつかありますが、このシルバーストーンで行われるイギリスGPは、正真正銘「伝統の」F1レースと言われています。1950年にF1が初めて開催された地であり、それ以降一度も欠かさず必ず毎年レースが開かれているサーキットでもあります。が、もちろんそのコースは時代とともに少しずつ変遷し、特に今年からは大幅な改修が施され、メインストレートの位置すらほぼ180度変わってしまいました。それに伴いパドックなど設備はほとんど新築され、まるでグリッド周辺の風景は新造サーキットのようです。
 とはいえコース特性は相変わらず中高速コーナーが連続する全開区間の長い超高速サーキットに代わりはありません。今回もタイヤの使い方がキーになるのは言うまでもありませんが、それと同時に今回のレースを決定づけたのは、イギリス特有のどんよりとした空模様と、スロットルオフ時の排気による吹きつけディフューザに関するレギュレーション変更、そしてピット作業ではないかと思います。
 地上波放送中にも解説者らが指摘していましたが、せっかくピットやパドックが一から新設されたのに、なぜかピットロード幅が異常に狭くなっています。そのせいかどうかは分かりませんが、今回はいくつかのピットミスが見られました。その影響を受けた不運なドライバー三人を取り上げたいと思います。

「全体的なパフォーマンスはよかったのに」 小林可夢偉/ザウバー

 予想通りこの高速コースにはザウバーのマシンもぴたりと合っていて、予選では久々にトップ10に入りを果たし、レース前には4位か5位は狙えるという強気の発言が飛び出すほどの好調ぶり。が... 実際のレースは可夢偉にしては珍しいほどの不運の連続でした。
 まずはシューマッハに一方的に追突されてスピン。それに加えて決定的なピットミス。作業が終了しロリポップに従いピットアウトした可夢偉の先には、ウィリアムズのマシンがいました。マシンとの接触はなんとか避けましたが、その代わり他チームのホイールガンにヒットし、ウィングを壊してしまいます。さらにこのピットミスは危険行為と見なされ10秒のピットストップペナルティ。
 シングル圏内で虎視眈々上位を狙ってレースを展開していた可夢偉は、いつの間にかポイント圏外へ脱落。ウィングが壊れてタイムも伸びず、上位へ返り咲くチャンスも失ってしまいました。最後は追突された影響か、オイル漏れが発生して今年初のリタイアとなりました。
 一方チームメイトのペレスは堅実なレース運びで7位入賞。可夢偉のお株を奪うようなレース展開でした。このことからも可夢偉にはもっと上位フィニッシュの可能性があっただけに残念です。
 どれも直接的には可夢偉の責任ではありませんが、不運だっただけで片付けることなく、その運や流れを味方につけて周囲の人々の士気を上げていくことこそ、本当にトップドライバーに必要な能力では無いかと思います。次戦に大いに期待です!

「ファンには応援してもらえたと思う」 ジェンソン・バトン/マクラーレン

 ここイギリスGPは彼にとっての母国グランプリ。しかし過去の戦績はあまり良くありません。ブラウンGPでチャンピオンをとった2009年でさえ、表彰台にも乗れませんでした。そしてマクラーレンに移籍して二年目の今年もまた結果は散々。マクラーレンにとっても母国GPでしたが、そのマシンはこのコース特性に合っていないのか、ハミルトン共々予選からあまりパッとしません。
 5番グリッドからスタートして我慢のレース運び。しかしウェットからドライへと次第に乾いていく難しいコンディションは、今年のカナダGPを思い出させます。もちろんそんな単純なことではないのでしょうが、混乱のレースの中で一人安定したペースを保ちつづけるのは、バトンの得意技のはず。
 しかしそんな期待も単純なピットミスで完全に潰えてしまいました。それもホイールナットが入らなかったと言うだけのありがちなミス。通常であればやり直しで数秒のタイムロスで済むはずのところ、なぜか焦ったピットクルーは、ホイールナットを一輪つけないままバトンを送り出してしまいました。それでは当然まともに走れるはずがありません。ピットロード出口でマシンを止めざるを得ないバトン。あっけなくリタイアです。
 ポイントランキングではベッテルから実に96ポイント差の5位。ハミルトンと仲良く同点です。可能性で言えばまだ何でも起こりうるとはいえ、現実的にはマクラーレンの2台はいよいよ厳しくなってきました。

「最高ではないときは誰かに負ける」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル

 予選2番手ながらもスタートで軽々とウェバーを抜き去り、事実上いつもの独走態勢を作ったベッテルでしたが、いくつかの問題が発生してそのポジションを守りきれませんでした。吹きつけディフューザーの禁止により、ブレーキング時の安定性が失われると言われていましたが、その影響は見た目にはそれほど感じられません。それは予選でレッドブルがフロントロウを独占したことにも表れています。
 問題点の一つはタイヤとコースとマシンの相性。フレッシュな時でもそれほどペースは上がらず、しかも周回を重ねたあとのタイムの落ち込みが大きく、十分に後続を引き離すことができないどころか、ドライになって差は詰まってきてしまいました。そしてもうひとつの予定外はフェラーリ、アロンソの絶好調。レッドブルとは対照的に、周回を重ねてもタイムが落ち込むどころか、次々にファステストラップを記録して背後に迫ってきます。
 それでも2回目のピットストップをするまではギリギリでトップを守り、ベッテルはペースをコントロールしているようにも見えました。トップを走りながらも終盤に追いつかれる展開は、今シーズンも何回か経験していますし。なのに、問題の2回目のピットストップで、レッドブルには珍しくタイヤ交換に手間取り数秒のロス。それだけであっという間にアロンソとハミルトンに抜かれて3位に転落。それだけギャップも少なかったと言うことです。
 ペースの上がらないハミルトンは何とか抜き返しましたが、代わりにトップになったアロンソは遠く離れてしまい、追いかける力ももはやありません。むしろハミルトンを抜くために3回目のピットインを早めたことで、ファイナルラップでタイヤが急激に傷み、チームメイトのウェバーと遺恨を残すバトルを展開するほど。結局何とか2位は死守しました。
 今ひとつ決まらないマシンとピットミス。優勝こそ逃しましたが、予選で失敗したことも含め結果的に失ったものはあまり大きくありません。ポイントランキングでもただ一人、余裕の200点超えです。

 ベッテルとウェバーの争いもファイナルラップの最終コーナーまでもつれましたが、もっと激しい争いをしたのはハミルトンとマッサでした。残燃料が厳しくなってウェバーにポジションを譲ったハミルトンは、さらに後ろから来たマッサにも一度はほとんど抜かれています。が、天性の勝負強さで無理矢理ポジションを奪い返し、最終コーナーでなんとかマッサを振り切ります。マッサはカナダに続き最終コーナーでのポジション争いを演じました。カナダでは勝ち、今回は負けましたが。
 また、予選ではザウバー共々久しぶりのトップ10入りを果たしていたフォース・インディアのディ・レスタやウィリアムズのマルドナドは、結局ポジションを守れずにポイント圏外へ。中段チームでポイントを稼げるザウバーはやはり頭一つ抜き出ているのかも。

 次のレースは2週間後、最年少チャンピオンの凱旋レース、ドイツGPです。今年はニュルブルクリンクで行われます。

 なお、イギリスGPのリザルトはこちらです。