酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

想い雲

想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

土用の入りが近づき、澪は暑気払いに出す料理の献立に頭を悩ませていた。そんなある日、戯作者・清右衛門が版元の坂村堂を連れ立って「つる家」を訪れる。澪の料理に感心した食道楽の坂村堂は、自らが雇い入れている上方料理人に是非この味を覚えさせたいと請う。翌日、さっそく現れた坂村堂の料理人はなんと、行方知れずとなっている、天満一兆庵の若旦那・佐兵衛と共に働いていた富三だったのだ。澪と芳は佐兵衛の行方を富三に聞くが、彼の口から語られたのは耳を疑うような話だった―。書き下ろしで贈る、大好評「みをつくし料理帖」シリーズ、待望の第三弾。

Amazon.co.jp: 想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫): 高田 郁: 本

 高田郁さん作の人気シリーズ「みをつくし料理帖」シリーズの第三作です。このシリーズもまだ過去作を追ってる段階で、現時点でさらにもう二冊、第五作までが発行済です。とても読みやすい小説ですので、その気になればすぐに読みきれてしまいそうなのですが、実際にはなかなか追いつきません。しかも半年に一作ずつのペースで新作が出ているので、うかうかしていると秋口には第六作目が出てしまうかも。ということで久しぶりに一巻読み進むことにしました。

 今作の舞台ももちろん元飯田町のつる家。そこで料理人として腕を振るう澪の奮闘記にして、そのまわりを囲む人々の人情物語です。前作「花散らしの雨」はまだシリーズの第二作目だというのに、澪がすっかりスーパー料理人になってしまい、物語の展開も落ち着いてしまったという、どちらかというと否定的な意味の感想を書きましたが、この三作目からは再び物事が大きく動き始めました。表のストーリーとは別に、澪が背負う重い運命の行方にも、じわじわと新しい展開が出てきます。

 それは例えば、澪と芳が江戸で暮らす目的でもある天満一兆庵の再建の道のりをはじめ、吉原へ身を沈めてしまった幼なじみとの関係、澪自身の料理人としての失敗と成長、大坂と江戸の食文化の違い、そして澪の恋路の行方などなど。こうして書き出してみるだけでも、実に多くのことが同時にゆっくりと進行しています。しかし複雑さも唐突さも感じることなく、すんなりと澪の世界へと入り込むことができます。

 そこに、つる家で起こる日常の大小様々な出来事や事件を表のストーリーとして被せ、当時の料理や食材を通して季節を感じさせるすがすがしくてさわやかな時代小説。ちょうど今作は初夏から初秋にかけての季節が描かれており、今頃読むにはピッタリな内容でした。江戸に町角で暮らす庶民たちの息吹も存分に感じられます。

 主人公の澪をはじめ主な登場人物が女性ばかりだし、物語の展開や山場も女性らしい優しい雰囲気で独特の特徴があるにしても、何となく佐伯泰英作品にも似た読み味を持つ時代小説シリーズものだなぁと感じます。文庫書き下ろしの時代ものらしく、面白くて気楽に読めて、ウルウルすることもあればドキドキすることもあり、最後は笑いで終わるとても上質な娯楽小説。この続きがまたまた楽しみです。

 【お気に入り度:★★★☆☆】