酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

狐官女

狐官女   土御門家・陰陽事件簿(三) (光文社文庫)

狐官女 土御門家・陰陽事件簿(三) (光文社文庫)

土御門家の触頭・笠松平九郎は、京の治安に目を配り、事件を未然に防ぐ役割を負う。その平九郎に心強い助っ人が現れた。自ら浪人となり、内職の傍ら観相で稼ぐ小藤左兵衛。二人は様々な難事件に遭遇しながらも人情味豊かに解決する。―仙洞御所の女官たちに風邪が流行るのは、狐による変事なのか?その正体を追う二人に意外な結末が待つ(表題作)。ほか全七編収録。

Amazon.co.jp: 狐官女 土御門家・陰陽事件簿(三) (光文社文庫): 澤田 ふじ子: 本

 最近気に入って読んでいる、澤田ふじ子さんの「土御門家・陰陽事件簿」シリーズ第三巻です。鴉の婆さんの次は、狐の女と来ました。陰陽師と狐の組み合わせは何かと想像をかき立てます。狐憑きの伝説や俗話は日本にかなり古くからあるようで、時代小説にもしばしば取り上げられます。そして人(ほとんどの場合女性)にとり憑く狐と陰陽師は、切っても切れない関係にあります。

 そのあたりの伝説とも史実とも取れないような歴史的背景は、この本の中でも触れられていますが、このシリーズは第一巻から一貫して、呪術的な意味合いのファンタジーを排除しています。かといって、全てを否定するような野暮をしているわけでもありません。「狐が人に取り憑く」なんてことは科学的に事実無根であると言うことと、当時の人々が説明のつかない現象を「狐憑き」と信じていたということは、全く別の次元の話です。本作はその辺のバランスが実に絶妙に取られています。

 前作では鴉婆こと"お勝"と大黒党の一味が登場し、彼女らは今後このシリーズのキーとなる人物なのかと思っていました。しかし今作では「小藤左兵衛」という浪人が新たに物語に登場します。そして前作の鴉婆と同じように、各話のストーリーとは別に、全編を通して背景に流れるもう一つのストーリーの主人公となっています。どうやらこのシリーズは各巻ごとに、お勝や左兵衛のような主役級の脇役が登場し縦糸の物語を紡ぎ出す、という構成を取っているようです。そういえば、第一巻には盗賊の八郎兵衛と安三というのがいましたっけ。

 さて、今作の主要人物、小藤左兵衛。浪人の身でどのようにして土御門家譜代の平九郎と出会うのでしょうか? そして彼はどんな人なのか? 私は捻くれたところがあるので、あまりに出来が良すぎるスーパーマンは今ひとつ好きになれないところがあるのですが、この左兵衛はそのギリギリのところにいる人物です。ちょっと平九郎をいろいろな面で圧倒し過ぎじゃないのかな?という気がしました。これまでは平九郎こそがスーパーマン的だと思っていたのに。

 それにしても結末の悲しさと言ったらありません。決してバッドエンドではなく、むしろ基本的にはハッピーエンドだと思うのですが。なぜか深くため息をつきたくなってしまいます。世の中の無情を感じるというか何というか。いかに博学博識で頭の良い左兵衛と言えども、この落ちを見通せたわけではないはずです。

 【お気に入り度:★★★★☆】