酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2010年F1第15戦 シンガポールGP

 シンガポールGPは今年で3回目となりますが、この大都会の中でのナイトレースは、秋口のF1の風物詩として、すっかり定着した感があります。摩天楼の中に煌々と浮かび上がる市街地コース、その照明の中を走るF1マシンの姿は幻想的で、初めて見たときにはびっくりしました。今やカレンダーの中になくてはならない、レースの一つです。

 市街地コースらしく、コース幅は所々で極端に狭く、壁に囲まれています。エスケープゾーンもほとんどないので、ちょっとしたミスが命取りになるのはモナコと同じ。そしてコース上でのオーバーテイクは難しいながらも、毎年セーフティーカーが出るなどして、荒れた展開になるのが常です。

 今回のレースも序盤に導入されたセーフティーカーが一つのポイントとなりましたが、今年F1の常として、最後に命運を分けたのは今回も"タイヤ"です。

「シーズンの残りを楽しみたい」 ルイス・ハミルトン/マクラーレン

 前戦イタリアGPに続く2戦連続のノーポイントレースを演じてしまいました。ライバル達がラストスパートをかける中でのこの連続0ポイントは、ハミルトンの精神的な面において、チャンピオン獲得への意欲をほとんど摘み取ってしまったようです。とは言ってもまだランキングは3位。トップからは20ポイント差なので、このコメントのように諦めるにはまだ早すぎます。
 前戦でのリタイアは、ハミルトンのやり過ぎと言われていますが、今回はどうだったのでしょうか? レース終盤、セーフティーカー明けのリスタート後、ペースの上がらないウェバーにアウトから仕掛けます。しかしこのアタックはインに突っ込んできたウェバーにはじき飛ばされて、失敗に終わりました。
 また無茶をしてしまった... という気がしないでもないのですが、よく考えれば、このチャレンジはドライバーなら当然の行動だとも思います。ポイントリーダーを争うウェバーを相手に、千載一遇のチャンスが訪れ、しかもハミルトンは実際のところほぼ完璧にオーバーテイクをしてのけました。
 彼にもしミスがあったとすれば、相手がウェバーであると言うことを忘れ、あまりにもギリギリの大人なバトルを仕掛けてしまったという点ではないかと思います。

「ルイスが素晴らしい走りで僕に迫り、残念ながら僕らは接触した」 マーク・ウェバー/レッドブル

 え?ハミルトンは素晴らしい走りをしたけど、自分は下手くそだったので残念ながら接触した、と言うことでしょうか? 今回も実にウェバーらしいレースでした。ポイントリーダーを賭けた1対1のバトルを、またしても接触という形で片付けたのですから。F1をカートか何かと間違えているのではないかと疑いたくなります。
 周回遅れの処理に失敗しハミルトンにスリップストリームに入られたあと、半車身前に出てラインの優先権を取りつつ、それでも1ライン分残して切り込んでくるハミルトンのマシンに対し、ウェバーは浅い角度でマシンの鼻先をハミルトンのイン側に突っ込んで当ててしまいました。ハミルトンがいなければ、あの直角コーナーを曲がり切れたかどうか怪しいほどの、おかしなブレーキング&ライン取りです。
 チャンピオンを争っている相手だからこそ譲れないのは分かりますし、悪意があるわけではないのでしょう。レースコントロールでも、この接触のすぐあとには審議が行われましたが、結局レーシングアクシデントと判定されました。
  ハミルトンをリタイヤに追い込んだことが功を奏して、彼はいまだポイント・リーダーの地位を保っています。

「でもプッシュする必要があった」 小林可夢偉/ザウバー

 予選でもQ3に進み、10番グリッドからスタートしたものの、いつものようなジャンプアップは見られず、1ポイントをかけた我慢のレースとなりました。序盤のセーフティーカー導入時にピットインせずコースにとどまり続けた彼は、再スタート後はとにかくプッシュして後続とのギャップを築き、自身のピットイン後にポイント圏内にとどまることが、レース戦略となっていたと思われます。
 そのためにも、ペースの上がらないシューマッハをやや無理をしてオーバーテイクしたわけですし、その後前が開けたところでは、とにかくペースを上げる必要がありました。
 事前情報では長持ちすると言われていたタイヤは、実際にはレースを半分も走ると、ほとんど終わってしまったようです。終わりかけのタイヤでプッシュをしなくてはいけなくなった可夢偉は、結局ブレーキングに失敗し、壁の餌食となってしまいました。
 彼のミスは事実ですが、チームの考えた難しいレース戦略を忠実に実行している最中での出来事です。リタイアするまでは戦略はほぼ完璧に遂行されていました。結果が全ての世界ではありますが、レース内容はそれほどネガティブではなかったと思います。母国のレースでは是非がんばって欲しいと思います。

チャンピオンの行方

 ちなみに優勝はアロンソ、2位はヴェッテルとなりました。アロンソは2戦連続優勝で、ハミルトンに対してこの2戦で50ポイント詰め、一気にランキング2位まで上がってきました。ヴェッテルもライバル達と比べてパッとしないものの、しぶとくチャンピオン争いにはついて行っています。ここで黄色信号が灯ってきたのは、ディフェンディング・チャンピオンのバトンかも知れません。それでもトップと25ポイント差、ちょうど優勝1回分です。
 ヴェッテルやバトンなど、追いかける側にとって問題なのは、韓国GPが開かれるかどうか。韓国GPを含めればあと4戦残っており、逆転のチャンスが増えますが、もし韓国GPがキャンセルされてしまうと、残りは3戦しかありません。この1戦の差はチャンピオン争いに大きな影響を与えます。
 そして絶好調のアロンソにも問題はあります。彼はすでに今シーズンの新品エンジンを全て使い切っているのです。今後使えるのは中古エンジンだけ。新エンジン投入や、GP期間中のエンジン交換は10グリッド降格となりますし、レース中にトラブルでも起きればノーポイントの可能性もあります。そう考えると、やはり一番有利なのはウェバーであることに変わりはなさそうです。
 個人的に、ウェバーのチャンピオンは納得がいかないので、なんとか大逆転劇を期待したいところです。

 次回はいよいよ来週末、鈴鹿サーキットで日本GPが行われます。今年も現地で観戦してきたいと思います!