酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2010年F1第14戦 イタリアGP

 イタリアGPが行われるモンツァ・サーキットは言わずと知れたフェラーリの聖地。10年くらい前に深いシケインが追加されたものの、長いストレートと中高速コーナーつながれた基本的なレイアウトは長年変わっておらず、最高速度は350km/hに達し、ハードブレーキングを必要とし、平均速度は240km/hにも達します。
 今となってはオールドコースの中のオールドコースであり、現代のF1マシンにとっては得意、不得意が明確に別れています。ここをホームコースとしているフェラーリはもちろん、エンジンパワーとFダクトを持つマクラーレンには有利で、空力&メカニカルグリップに優れるものの、エンジンの弱いレッドブルには不利と言われていました。
 完全ドライコンディションで波乱要素のない今年のレースは、純粋にマシンとドライバーの速さ、そして作戦の巧さを含めたチームの実力を競う、ある意味シンプルなレースとなりました。勝敗のポイントとなったのは「ピットインのタイミング」です。

「フェラーリに乗ってモンツァで優勝することは格別だ」 フェルナンド・アロンソ/フェラーリ

 もちろんこの優勝は格別なはずです。移籍後初のモンツァのレースで、しかも今年はまだ2勝しかしておらず、チャンピオン争いに首の皮一枚で残っている状態。そんな中で完全に力で勝ち取った優勝なのですから。スタートでバトンに前に出られてしまったのは誤算だったと思いますが、素晴らしいチームワークによって逆転に成功。予選の結果通り、このコースで今年一番速いのは自分であることを、残り周回でバトンを大きく引き離すことで証明して見せました。
 ポイントはなんと言っても、ピットインのタイミングとピット作業です。バトンに遅れることたった1周でしたが、その間に飛ばしてコンマ数秒、さらに完璧なタイヤ交換作業によってさらにコンマ数秒を稼ぎ出したわけです。その結果、1コーナーでバトンとのサイド・バイ・サイドのバトルに持ち込み、その戦いも制しました。アロンソの力だけでなく、フェラーリがチーム全体で演じた、鮮やかな作戦遂行劇でした。
 ドイツGPではケチの付いた優勝でしたが、今回は文句なしの結果。やっぱりレースはこうでなくては!と思います。これでアロンソはポイント・ランキングで3位に浮上し、チャンピオン獲得に望みをつなぎました。

「おそらくピットインのタイミングが間違っていたのだろう」 ジェンソン・バトン/マクラーレン

 いえ、多分ピットインのタイミングというよりも、バトンにとっての問題は、強力なメルセデスのエンジンと、Fダクトのアドバンテージを持ちながら、アロンソを突き放すことが全くできなかったことではないかと思います。これがマシン性能の限界だったなら仕方ありません。マッサに抜かれなかったことを良しとするべきでしょう。しかし、本当にそうなのでしょうか? ここには謎が少しだけ残ります。
 給油というファクターのない今年のF1の場合、ピットイン戦略はタイヤの摩耗のみに依存しているとも言えます。タイヤに大きな問題が出ない場合は、まさに自由。義務づけられた1回のストップはいつでもできることになります。アロンソがバトンのピットインを待っていたのだとすれば、バトンはタイヤさえ持つならば、ファイナルラップまでピットインを引っ張れば良かったのかもしれません。実際そういう作戦が可能であったことを証明したドライバーがいます。
 バトンはポイント・ランキングで4位につけました。アロンソからは1ポイント差、トップからは22ポイント差。自力チャンピオンもまだ可能です。

「今日の僕らの作戦は危険だった」 セバスチャン・ヴェッテル/レッドブル

 その危険な作戦とは... バトンのところで触れた「最終ラップまでピットインを引っ張る」というものです。スタートに失敗し、しかも途中で謎のスローダウンを喫して、さらにポジションを下げたヴェッテルは、一か八かの危険な賭に出ます。しかし、彼には賭に敗れたからと言って失うものはもうありません。大胆な戦略をとるのは理にかなっていました。
 ソフトタイヤの摩耗状況は悪くなく、タイムは燃料が軽くなった分、順調に上がっていきます。いやむしろ少し摩耗してからの方が、レッドブルのマシンとヴェッテルには合っていたのでしょう。前をゆくマシンがピットインで消えてから、20周に及ぶ単独周回のうちに3台抜きを演じます。結局彼がピットインをしてタイヤ交換をしたのは最終ラップ。ほとんどソフトタイヤだけでレースを走りきったも同然です。
 タイヤの性能はもちろんですが、これだけタイヤを使いこなせるレッドブルのマシンと、ヴェッテルのドライビングもさすがです。冷静にこれだけのことをしてのける力があるのですから、チャンピオン争いにも最後まで残って欲しいものです。
 ポイント・ランキングで5位に落ちましたが、バトンからは2ポイント差、トップからは24ポイント差。1レースでひっくり返る可能性がまだあります。

「おそらく少しやりすぎたのだろう」 ルイス・ハミルトン/マクラーレン

 ポイントリーダーとしてチャンピオン獲得へ一歩近づく絶好のチャンスをつまらないミスで台無しにしてしまいました。あの段階で無理にマッサのインに飛び込む必要はありませんでした。ある意味、ベルギーGPでのヴェッテルよりひどいミスだったと言えると思います。あまりにも安易で冷静さに欠いていました。
 チームメイトのバトンの絶好調とは対照的に、Fダクトなしのマシンを選ぶというミスにより予選で結果が出なかったことで、ハミルトンには焦りが生まれ、レースペースに自信が持てず、無理をしてしまったのかも知れません。
 これでポイントリーダーの座はウェバーに奪われてしまいましたが、まだたったの3ポイント差。ウェバーも結果が芳しくなかったのが幸いでした。しかし今後のレースを考えると、現時点でレッドブルを追いかける立場にいるというのは、彼にとってはポイント差以上の壁があると言えそうです。

 最近絶好調の小林可夢偉は残念ながらマシントラブルでリタイア。ポイントリーダーとなったウェバーはレース内容には全く良いところ無し。でも、そんな中でもきっちりポイントを取っておくというのは重要です。この数ポイントはシーズンが終わってみれば決勝点になるかも知れません。しかも、今後のレーストラックは鈴鹿含めてレッドブル向きと言われています。現時点ではポイント上ももちろんですが、ウェバーがチャンピオンに一番近いところにいるのは確かです。

 今年のヨーロッパラウンドはこれで終了。次はいよいよ秋のアジアツアー。次戦は2週間後、シンガポール市街地の美しいナイトレースです。