酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2010年F1第11戦 ドイツGP

 今シーズンの参戦ドライバーを出身国別で見ると、最も多いのがドイツ人です。ヴェッテル、シューマッハ、ロズベルグ、スーティル、ヒュンゲルベルグ、グロッグと総勢6人もいます。以前からそうだったか定かではないのですが、ちょっと意外な気もします。またチームで言うと、メルセデスはもちろんドイツの自動車メーカーです(チームの本拠地はイギリスですが)。そんな多く関係者やファン達にとっての"ホームグランプリ"はさぞかし盛り上がったに違いありません。

 ニュルブルクリンクとホッケンハイムで隔年開催されているドイツGP、今年はホッケンハイムで開催されました。コース幅もランオフエリアも広く取られたターン4が特徴で、これまでにも多くのオーバーテイクがここで繰り広げられました。特に激しいバトルが見られるようになった今年のF1、ホッケンハイムのコース特性と合わせてきっと面白いシーンがたくさん見られるに違いない、と期待は高まりましたが... その「面白いシーン」は期待と違う方向で発生してしまいました。

「フェルナンドの方が速い。言ってることがわかるか?」 ロブ・スメドレー/フェラーリ

 レース終盤の48週目、にマッサ担当のレースエンジニアが無線で驚くべきメッセージを発しました。最近のF1はチームの無線はすべて公開されており、TV放送に流れてきます。そのメッセージとは原文(英語)で下記のようなものです。

  "Fernando is faster than you, did you understand that message?"

 トップを走るマッサの後ろにアロンソが近づいてきました。マッサはタイヤに苦しみややペースダウン気味。この状況で発せられた上のようなチームの無線が意味するところは明白です。これにマッサが応答したのかどうかはTV中継ではわかりませんでしたが、マッサは直後の49週目、ターン4を立ち上がったところで突然加速を鈍らせます。当然のごとくアロンソは前に出ます。
 この後、再びロブ・スメドレーは無線でマッサに下記のように話しかけます。

 "OK, good lad. Just stick with him now. Sorry"

 ここまでくれば証拠は十分。これはチームオーダー以外の何ものでもありません。フェラーリチームは公式には否定していますが。トラブルかミスでポジションを下げてしまったドライバーに"Good lad"というチームエンジニアはいないはず。ましてや謝るなんて。

 しかしなぜにここまで露骨なやり方をしたのでしょう?それが不思議でなりません。フェラーリチームはレース後に「チームオーダーではない」と表向き否定し続けているわけで、確信犯ではないようです。
 良い悪いは別にして、バレないようにやる術は素人でもいくらでも思いつきます。しかしこの無線内容もそうですし、マッサのスローダウンの仕方も露骨で稚拙すぎ。マッサはそれこそ確信犯かもしれませんが。

「自分が優勝できるドライバーであることを証明した」 フェリペ・マッサ/フェラーリ

 いや、逆ではないかと思います。マッサは「優勝することが許されないドライバー」であることが証明されたのだと思います。もちろん、後ろがチームメイトでなければチームオーダーは下される可能性は低くなります(ゼロではない)。でもそれは結局、他のドライバーがミスかトラブルに見舞われれば自分は優勝できる、と言ってるのと同じことです。だとすればそれは誰にとっても同じことで、意味はありません。
 フェラーリのマシンが改良され、見違えるように速くなったことで手に入れた競争力を生かして、彼が優勝するチャンスは非常に低いと言わざるを得ません。

 ずっと以前から思っていたのですが、フェラーリのNo.2に徹するほど、悲しいドライバー人生はないのではないかと思います。そこにいる限り、どんなに良いマシンを手に入れたとしても、いや、良いマシンであればあるほど、トップに上り詰めることは絶対に出来ないのですから。

 上で「稚拙で露骨すぎる」と書いたあのスローダウンのやりかたは、彼なりの無言の抗議なのではないかとも思います。2002年のバリチェロがチェッカーフラッグ直前で急停止したときのように。

「チームにとっては本当に強力な結果だ」 フェルナンド・アロンソ/フェラーリ

 全くその通りです。開幕戦以降、レッドブルとマクラーレンの優勝争いに全くついて行けなかったフェラーリが、棚ぼたでも何でもなく自らの力によって勝ち得たワン・ツーなのですから。予選を通じて見せたフェラーリの大復活劇は、F1にとってとても大きなニュースだったはずです。しかしそれはチームオーダー騒動によりかき消されてしまいました。
 そしてこのアロンソの至極まっとうなコメントも、どうしても穿った見方をしてしまいます。チームオーダー含めてすべてがうまくいった、と。
 2002年のヨーロッパGPの表彰台でミハエル・シューマッハは観客からブーイングを受け、彼らしからぬ動揺を見せました。F1ドライバーとして、何のために優勝し、チャンピオンにはどんな価値があるのか? さすがのシューマッハもそれに気づいたはず。アロンソはいったいどう思っているのか、気になるところですが本心を知る術はありません。

「二人のドライバーのうち一人にまったく可能性がなくなった場合なら納得できる」 ルイス・アントニオ・マッサ

 意図的に順位を操作するのはスポーツとして倫理に反する、という意見も一理あるし、チームスポーツであるからこそチームオーダーは作戦の一環だ、というのも一理あります。他の競技では認められているから、というのは議論のすり替えだと思います。F1には独自の歴史と文化と競技性があるのですから。
 そういう意味で、このマッサ父の言葉が、この議論に対する唯一の正解ではないかと思います。つまり、フェリペ・マッサにチャンピオンシップ獲得の可能性がなく、アロンソにはあるのであれば、今回のようなチームオーダーは行われてしかるべきだ、ということです。裏を返せば、そうでない場合は行われるべきではない、ということになります。

 2002年のヨーロッパ、2007年のブラジル、2008年の中国、そして今年ドイツ。どのチームオーダーは受け入れられ、どれが批判されているのか?レースを見ているファンにとっての利益は何か?という点を考えれば答えは決まってくるはずです。


 次はハンガリーGP。明後日が決勝です!