酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

おぅねぇすてぃ

おぅねぇすてぃ (新潮文庫)

おぅねぇすてぃ (新潮文庫)

明治五年。函館の商社で働きながら、英語通詞を夢見る雨竜千吉。彼に心を残しつつ、家の事情で米国人に嫁いだお順。御一新のあと別々の道を歩んでいた幼馴染の男女は、築地の外国人居留地で偶然の再会を果たす。今度こそ、互いの気持ちに正直になると誓い合うが、夫は離縁に条件をつけ、運命は再びすれ違う―。文明開化の熱気覚めぬ中、激しく一途な恋模様を描く、傑作時代小説。

Amazon.co.jp: おぅねぇすてぃ (新潮文庫): 宇江佐 真理: 本

 新潮文庫から発売された宇江佐真理さんの新刊です。宇江佐さんといえば江戸時代物の時代小説というイメージがありますが、この小説はなんと明治時代を扱っている珍しい作品。文庫新刊ということは2年くらい前に発表されたものかと思えばそうではありません。作者本人による「文庫版のためのあとがき」によれば、これが書かれたのはだいぶ昔のことで、ほぼ忘れ去られていたものを新装版として新たに発売したものだそうです。
 それにしても宇江佐作品には外れがありません。これも時に号泣を誘うすばらしく面白い物語でした。

 明治時代といってもまだ初期も初期、ご一新の真っ最中でもあり江戸時代幕末の空気を色濃く残したなかで、いち早く文明開化の波に飲み込まれていった若者たちを描いた、夢にあふれる青春ドラマとも言えます。新しい世の中や広い世界に憧れ、新生日本を目指す活気にあふれる一方で、過ぎ去り失われていく古来の日本を懐かしみ惜しむ侘びしさにも溢れています。そして宇江佐さんらしく、舞台は戊辰戦争終結の地でもある函館から始まります。

 宇江佐作品として前回読んだ「アラミスと呼ばれた女」と時代的、場所的に連続性があること、外国人と接する"通詞"という仕事がキーとなっていること、そして男女の恋愛が中心的な筋となっていることなど共通点が多く、この二作品を続けて読むとなお楽しめるのではないかと思います。ストーリー的には関連性はないし、雰囲気もかなり異なりますが。

 そんな背景はさておき、千吉とお順の煮え切らないことといったらありません。小説の登場人物たちは時にとても愚かでイライラさせられることがありますが、この二人はその典型です。ま、そこがスッパリ煮え切ってしまったら小説にならないのですが。

 この「おぅねぇすてぃ」とはもちろん英語の"Honesty"のことです。ずばり訳せば「正直、誠実」といった意味になります。これは男女の関係にとってとても重要な言葉です。特に千吉にとっては...。この言葉を彼らは最後まで忘れずにいたのかちょっと疑問に感じます。その点が不満と言えば不満かもしれません。

 【お気に入り度:★★★★☆】