酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

牡丹酒

牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二) (講談社文庫)

牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二) (講談社文庫)


 ということで「深川黄表紙掛取り帖」に続き、続編で第二巻となる「牡丹酒」を読んでみました。馴染み深い深川の地を舞台に、生き生きとした町人たちの生活風景を背景に、難問の数々を派手に解決する蔵秀たち四人組の冒険活劇... と思っていたのですが...。

 この第二巻は第一巻とはやや違った趣の物語となっていました。蔵秀たちが引き受けた仕事ごとに一応の結末を迎える短編集形式になっていた第一巻に対し、今作は一冊で一話完結となる完全な長編小説となっています。しかも舞台は江戸から飛び出しはるばる土佐へ。今回は酒をめぐる仕事です。

 正直なところ読後感はイマイチでした。思っていたのと違うからというわけではありません。長編なのも結構。深川を離れて土佐へ旅に出るのも悪くありません。でも、ストーリーが弱いというか、展開があまりにも簡単すぎるというか、背景が薄っぺらいというか...。

 出てくる人はみな善人、強大な後ろ盾を持ち、金の心配もない。腕は確かで、心意気もある。都合の良い偶然が重なり全ては順調。誰もから賞賛され、誰もが味方。一部の邪魔者は絵に描いたような醜い悪人。当然のように徹底的に打ちのめされ、虐げられる。

 かといって、佐伯泰英さんの小説のように、猛烈に格好いいヒーローが主人公というわけでもありません。テーマの重さとか、考証の正確さとか、言葉の美しさとか、そういう堅苦しいことを言うつもりはなく、娯楽小説は娯楽小説なりのメリハリが必要ではないかと、そう思うわけです。

 と、なんだかネガティブな感想を書いてしまいましたが、まぁ、普通に時間つぶしとしては十分に楽しめます。それでも、心に残る良い言葉が出てきました。

「なんたって、遠州灘の荒波を越えてくる酒だからよう。灘の下り酒と江戸の地酒とじゃあ、水も米も違ってんだ。たかくてもしゃあねえ。」
灘になど行ったこともない江戸っ子の多くは、灘酒は深山幽谷の酒蔵で醸造されるものと思い込んでいた。

 当時の酒飲みな江戸っ子の人たちの気持ちがわかるような気がします。見たこともない土地から海を越えてやってくる猛烈に美味い酒。江戸の水と米では絶対に作れない芳醇さ。酒についての言葉だけは、いちいち納得してしまいました。

 この小説でも取り上げられた「司牡丹」という酒は実際に実在しています。このお酒の歴史を知った上でこの小説を読んでみると、実はもっと楽しめるのかも知れません。折しも昨今は土佐ブーム。今度是非土佐のお酒を飲んでみたいと思います。

 【お気に入り度:★★☆☆☆】