酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2009年F1第12戦 ベルギーGP

 先の週末、2年ぶりにスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたベルギーGP。予選から誰もが予想しない展開の連続で、とあるドライバーはこの状況を指して「ミステリーだ」とコメントしました。まさしくその通り、ミステリーに包まれた今回のレースは、今年ここまでの12戦の中でも間違いなく一番に挙げられる面白いレースだったと言えるでしょう。

 そのミステリーの中心にいたのはフォース・インディアのジャンカルロ・フィジケラです。彼は優勝経験もあるベテランドライバーではありますが、チームは弱小プライベーター。最近時々良いパフォーマンスを見せるとはいえ、基本的にはトップ争いとは無関係なはずのチーム。それが天候が荒れたわけでもなく、安定したドライコンディションの中での堂々たるポールポジション獲得。本人も「なぜだか分からない」となれば、これはミステリー以外の何ものでもありません。

 しかもそのミステリーは土曜日の予選だけでなく、日曜の決勝でも続いていました。

「勝てたレースだったと思う」 ジャンカルロ・フィジケラ/フォースインディア
 原因不明でポールポジションを獲得したものの、やはりレースペースとなるとマシン的にも戦略的にもトップチームに利があり、フィジケラは良くて表彰台、悪くてもポイント圏内くらいの結果が順当だろうと予想されていました。しかし決勝でもミステリーは起こります。彼はしっかりとスタートを決め、トップを守るとそのままのペースで逃げ始めます。まさしくポールtoウィンの典型的レース運び。やや軽タンク気味でピット戦略は危うかったですが、それでもペースは終盤まで衰えず、レース後のコメントの通り、優勝するだけの力を十分に見せつけたレースとなりました。

 不運だったのはセーフティーカーが導入されて、序盤の貯金を失ってしまったこと。そして、その時後ろにいたのが、KERSを持ったライコネンだったことです。あの再スタートでフィジケラには何か他にやりようがあったのでしょうか? もう少しずる賢く再スタートタイミングをコントロールすれば、ライコネンにあそこまでぴったり後ろに付かれることはなかったかもしれません。再スタート後の1周だけを凌げば、彼の勝ちレースになっていたことでしょう。

 結局2位に落ちてしまったフィジケラは、それでもライコネンにぴったりついて行きます。2回目のピットタイミングによっては逆転が可能なくらいに。しかしその目論見は外れました。同時ピットインでは勝ち目はありません。わずか0.9秒遅れの2位でフィニッシュ。フォースインディアにとっては初ポイントにして初表彰台でしたが、とても見事で貫禄さえ感じるレース運びでした。

 既に忘れられかけていたドライバーだったフィジケラは、これで一躍注目を再び集め、そしてフォースインディアのシート価値はグンと高くなったことでしょう。そしてとうとう昨日になって、フィジケラはマッサの代役としてフェラーリに大抜擢されることに。

 イタリア人であり、次戦はイタリアGP。そして劇的なベルギーGPでのレース。やや浮かれ気味過ぎる気もしますが、ライコネンとの関係も考えると、なるほど、適任なのかもしれません。フェラーリに乗ったらもう言い訳は聞きません。彼の真価が問われます。

 これで、今シーズンフル参戦していて、ノーポイントなドライバーは二人だけになりました。一人はフォースインディアのもう一人、エイドリアン・スーティル。そしてもう一人は...。

「シャンパンはいつもの味だけど、気分は全く違う」 キミ・ライコネン/フェラーリ
 単に切れのある速さだけでなく、とても上手いレース運びを見せて久々の優勝を飾ったライコネン。勝利のポイントは何と言っても、セーフティ・カー明けの再スタート直後で、KERSパワーを有効に使ってフィジケラを抜き去ったことですが、もう一つは彼お得意のジャンプスタートにあったと思います。予選6番手でありながら、フィジケラに仕掛けるポジションまで上がって来たのはスタートの巧さがあってこそと思います。

 もちろんスタートでもKERSを使ったはずですが、今回は目の前にいたバリチェロがスタートに失敗し、ラインを大きく外に外さなくてはなりませんでした。そしてスパ名物の鋭角な1コーナー。ライコネンは接触を避けるため、コース上にとどまるのを早々に諦め、広いエスケープゾーンを使ってコース外からオールージュに向かって加速していきます。

 私にはこれが確信犯的(誤用のほう)に見えました。あのエスケープゾーンはしっかりと舗装され、コース上と同じようにトラクションがかかります。鋭角コーナーできっちりクリップを取るよりも、エスケープゾーンに逃げた方が車速が落ちず、結果的にコース上に踏みとどまったライバル達よりも、早くオールージュに飛び込めると...。その結果見事4台ごぼう抜きとなりました。一昨年、マッサが同じ事をやっていたように記憶しています。それをライコネンは覚えていたんじゃないかと邪推してしまいます。

 そして再スタート後にKERSパワーを使ってフィジケラを抜き去ったシーン。ライコネンの車載カメラの映像は衝撃的でした。ケメルストレートでフィジケラの真後ろに付いたライコネンのフェラーリは、その後不自然なほどに急加速をして、あっという間にフィジケラの前に出ます。まるでクラス違いの車のように。KERSの有効性がこれほど明確に生かされたシーンもないのではないかと思います。

 そして最後のポイントとなった、2回目のピットタイミング。ライコネンはフィジケラより1周早いと思われていました。真後ろにピタリと付かれた状態で、1周ピットタイミングがずれるのは致命的です。ライコネンはペースを調整して燃料をセーブしてピットタイミングを遅らせたのでしょうか?レース後のインタビューでは燃料戦略については彼ははぐらかして何も語っていませんが。

---
 次は2週間後、いよいよ今年のヨーロッパラウンドの最終戦、フェラーリのホームレース、イタリアGPです。チャンピオン争いは混沌としてきましたが、そろそろ脱落者がハッキリとしてくる頃です。