酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

ころころろ:畠中恵

ころころろ (新潮文庫)

ころころろ (新潮文庫)

 

  畠中恵さん作の大人気「しゃばけ」シリーズの第八弾となる「ころころろ」を読みました。このシリーズ、嵌って気に入ってしまって、文庫本になるのが待ちきれずにハードカバーで最近は即手に入れてしまいます。今回の「ころころろ」も先月末に発売になったばかり。ほとんど発売日に即買いしてしまいました。

 「しゃばけ」シリーズといえば、日本橋通町にある廻船問屋兼薬種問屋、長崎屋の若旦那一太郎と、彼を取り巻く人ならぬ存在の妖(あやかし)達が織りなす、時代ものコメディ、というかファンタジー小説です。基本はミステリー仕立てで、絶体絶命の大事件が起こるのですが、最後には必ずホッと心温まるハッピーエンドを迎える、娯楽小説の王道を行く作品でもあります。一太郎の人柄と妖達のハチャメチャさが、そのストーリーを支えています。

 今作ももちろん期待に違わぬ内容。でも、出だしからして今までとは少し違う雰囲気。時制が複雑に入り組んで、一章ごとの独立性が高まっています。「しゃばけ」シリーズを読んできたファンなら、最初の章を読んでいると「おやっ?」と思うに違いありません。

 内容のネタバレはするつもりはないのですが、今回起こる大事件がすでに本の帯にデカデカと書かれてしまっています。なので、公知の事実として書いておきますが、今回はなんと若旦那の目が見えなくなってしまうのです。それも病気や怪我ではないらしい...。ということで、帯にもあるように、鳴家たちはじめ取り巻きの妖たちが、若旦那の目に光を取り戻すべく奮闘する物語です。

 でも、率直な感想としては、今回はやや若旦那の影が薄かったかな、と思います。いや、若旦那の影が薄いというよりは、"人間"があまり出てこなかったというべきか。妖たちの活躍は、それはそれで面白いのですが、やはり過去の作品にあったような、若旦那を取り巻く普通の人間ドラマみたいなものがないと、ちょっと寂しいなぁと思いました。マンネリ化を恐れ敢えて新たな展開に挑戦したようにも思えました。

 その一方で、畠中恵さんの物語力には改めて感心してしまいました。特に第四章となる「けじあり」は秀逸です。なんというか、上手く言えないのですが、こんなにファンタジーを書かせたら上手い作家さんて、そうそういないと思います。この章の落ちのつけ方なんて本当にすごいです。本全体の落ちではないので、ごく軽いものではありますが、とても味わい深いのです。

 さて、最後に気に入った一節を紹介しておきます。「けじあり」に出てくるとある女性の言葉です。

「怖いねぇ、鬼は人を喰うともいうから」 「喰われるのは、嫌?」 「でも、喰いたい程いとおしく思う事が、あるかもしれないわ。喰われたいほどの思いにさえ、出会えるかもしれない」

 と、これらの言葉をここに転載していて気づきました。今作のテーマはズバリ「愛」であると。「恋愛」と書いた方が正確かも。小説のテーマとしてはベタなようですが、少なくとも私はこんな恋愛小説は今までに読んだことありません。

 鳴家の恋愛?一太郎の恋愛??  それは読んでのお楽しみです。

 お勧め度:★★★★☆ (しゃばけシリーズを読んできた人は、もちろん読まなくてはなりません)