酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2009年F1第3戦 中国GP

 昨年まではシーズン終盤、日本グランプリを含む秋のアジアシリーズの中の一戦として開催されていた、中国は上海でのレース。今年はシーズン序盤のこの時期の開催へと、大きく日程変更されました。昨シーズン終盤に発表された暫定カレンダーでは、日本GPと連戦で10月初旬開催となっていたのが、その後11月中盤に急遽変更されたものです。理由はわかりません。上海のモーターショーと併せてプロモーションできるし、中国にとっても秋よりは良い時期ではないかと言われていますが、2008年のレースからわずか半年での開催は、準備等考えると大変だったのではないかと思います。

---ディフューザー問題
 今回のレースの直前4月14日に、パリのFIA本部で重要な決定が下されていました。というのは、ブラウンGP、ウィリアムズ、トヨタが採用する2層ディフューザーの合法性について、公聴会と裁定が行われたのです。この3つのチームは、今シーズンになって急激に調子を上げたチームばかり。とくにブラウンGPの驚くべき強さは、過去2戦で証明されています。それは、今シーズンのレギュレーションの隙を突いてデザインされた、2層ディフューザーに鍵があるとされています。真面目にレギュレーションを解釈して、コンサバなデザインをした他のチームは、当然のように抗議の声を上げました。

 オーストラリアとマレーシアのレースでは、3チームともちゃんと車検に合格しています。が、今回はその論争に明確な決着をつけるべく、FIAとしての公式な判断を下すこととなったわけです。ブラウンGPがあまりにも強すぎるために、何らかの形で黒裁定がされるのではないか?という憶測がありましたが、結局のところ蓋を開けてみれば、完全な白裁定。これでブラウンGP、ウィリアムズ、トヨタの採用する2層ディフューザーは、完全に合法であるというお墨付きが得られたことになります。

 レギュレーションに曖昧さがあるのがそもそもいけない、というのは事実ですが、明らかにこれら3チームは確信的に規定の不備を突いているのも事実。結果今年のレギュレーションの"精神"には、合致していないと言われています。しかし既に決定済みのレーススチュワードの見解もありますし、過去の2レースについては不問に付すとして、この先のレースでは違法とする、というような、少し譲歩しつつも筋を通した決定になるのではないか?と個人的には思っていました。

 もちろん、中国GPからは禁止、と言われても、ディフューザーのデザインをすぐに変更できるわけでもなく、その場合これら3チームがしばらくレースに出場できなくなる可能性があります。同じ理由で、合法だからと言って他のチームがすぐに2層ディフューザーを使えるわけでもありません。開発には時間とお金がかかります。

 いずれにしても、今回のFIAの裁定は最もわかりやすく、簡単な決着だったと思います。トラック外の論争と抗争により、チャンピオンシップの行方に影響が出なかったのはとても良いことです。他の件についてもこのくらい潔いといいのですが>F1界。

---混戦模様の予選
 ということで、ディフューザー問題も決着して、すっきりと始まった今年の第3戦中国GP。フリー走行は今まで以上に目まぐるしく順位が入れ替わる混戦ぶり。そんな中で迎えた土曜日の予選。過去2戦とはやや雲行きが違いました。ブラウンGPの2台が速いことには変わりはないのですが、圧倒的な強さというか余裕は感じられません。手強いライバルとしてブラウンGPに立ちはだかったのは、ウィリアムズ... ではなくてレッドブルでした。

 普通の1層ディフューザーを搭載したマシンの中で、レッドブルは過去2戦でも最も速さを見せていました。醜いマシンが多い今シーズンにあって、ひときわ細いノーズを持った流麗なマシンは、さすが天才デザイナー、エイドリアン・ニューウェイの作品です。制限の多いレギュレーションの中にあっても"機能美"を感じさせます。

 予選が進むにつれて、どうやらブラウンGPとレッドブルの一騎打ちの様相が濃くなってきました。路面にラバーが付くにしたがって、どんどんタイムが上がり続けていく中でのQ3終盤。すでに残り時間がゼロとなってからの最後のアタックでのタイム更新合戦は、最近の予選の中でも特に見応えがありました。

 バリチェロ、ウェバー、バトン、ベッテルの順で入った最後のアタックラップ。各セクターごとにファステストタイムの更新が続き、いったい誰が一番速そうなのか見当も付きません。テレビの解説陣も混乱しているようです。結局、ブラウンGPとレッドブルの4台は0.4秒以内の差で次々にフィニッシュラインを通過。ポールポジションは若いベッテルが勝ち取り、伏兵アロンソが2位に割り込むというサプライズを見せて、混戦の予選が終了しました。

 3位にはウェバーが入り、ここまで2連勝のバトンは5位、バリチェロは4位という結果に。ブラウンGPはいよいよ追いつかれてしまったのか? しかし予選後に発表されたマシン重量を見てみれば、上位の3台はかなりの軽タンク作戦だったことが判明します。ブラウンGPの2台はそこそこ燃料を積んでいながら、僅か0.4秒以内に入ってるのなら、やはりブラウンGPが決勝では強さを見せるのではないかと思われました。普通のレースであれば...。

---雨の決勝
 劇的な予選から一夜明けて日曜日、決勝の日を迎えた上海はなんと雨。マレーシアのスコールのような豪雨と違って、シトシトと降り続ける雨は、レース開始時刻になっても一向に止む気配はなく、今日のレースが完全なウェットレースになることを予想させます。路面には水がたまり、F1マシンが走ると盛大に水煙が巻き上げられ、後続車はほとんど視界を失うような状態。2年前の富士の日本GPに似ている、とTVの解説者は言っていました。あんなに酷くないとは思いますが、似ていることは確かです。

 ということで、2年前の富士と同様、セーフティカーの先導によりレーススタートとなりました。この状況で不利になるのは先頭の3台。燃料を軽くして上位グリッドを押さえるという予選作戦は、すなわち決勝においてスタート直後から速いラップを刻み、後続を突き放すという作戦を意味しているからです。ガソリンをそこそこ積んでいるブラウンGPの2台に対し、ピットインのタイミング差でポジションを逆転されないだけのマージンを築いておかなくてはなりません。そのためには、ただでも短い第1スティントをセーフティーカー先導による周回で無駄に浪費してしまうのは、作戦上致命的に不利となります。

 この厳しい状況を見て、作戦変更に動いたのは2位を走行していたアロンソです。セーフティーカーが抜けてから、数周しかアタックできずに1回目のピットインを終えるよりは、セーフティカーがいる今のうちにピットインして、燃料を積んでおいた方が、後々有利になると考えたようです。確かにこの作戦には一理あります。しかし吉と出るか、凶と出るか五分五分の勝負です。

---ピットインのタイミングとレースペース
 一方で同じ軽タンクでありながら、アロンソとは違う作戦をとったのが、ポールポジションと3位につけているレッドブルの2台。長引くセーフティーカー先導中もじっと我慢をし、レース開始を待ちました。結局、セーフティカーが抜けて本格的にレースが始まったのは9周目。ギャップを築くべく猛烈に飛ばさなくてはならない第1スティントにおいて、セーフティーカーのために8周を無駄にしたことになります。

 しかしレッドブルの2台、特にトップのベッテルは失った8周をものともせずに、ものすごい勢いで飛ばし、あっという間に後続に差をつけてしまいました。17周目までに1回目のピットインを終えてコースに復帰してみれば、ベッテルはブラウンGPの2台に続いて3位、ウェバーは6位の位置で復帰できました。まずますと言ったところ。アロンソとレッドブルの2台の作戦の差は、レースペースに自信があるかないかの差だったのかも知れません。

 が、ここでさらにレッドブルに有利な事件が起きます。最終コーナー手前で起こったトゥルーリとクピサのクラッシュにより、再度セーフティーカーが導入されました。こうなるとピットインを終えたばかりのレッドブルには有利、まもなくピットインをする予定だったブラウンGPには圧倒的に不利となります。ここが、今回のレースの一つの大きなポイントだったと思います。

 1回目のピットイン・タイミングがセーフティカーと重なり、大きくポジションをロスしたものの、ブラウンGPの2台は絶妙なレース運びと相変わらず安定したペースの速さを見せて、レッドブルのすぐ後ろにつけて追い上げてきます。こうなると次のポイントは、2回目のピットイン・タイミングとなります。レッドブルの2台は、やはりそれまでに十分なギャップを稼がなくてはなりません。逆にブラウンGPの2台は、ギャップを空けられないようにして、2回目のピットタイミングの差により、逆転をねらわなくてはなりません。

 そうした混戦が予想された終盤でしたが、レースは完全にベッテルの一人舞台となりました。2回目のピットインを終えたベッテルは、一度バトンの後ろに下がりますが、一人異次元のペースを維持し、軽タンクなはずのバトンにすぐに追いつき、コース上でオーバーテイクしてしまいます。2回目のピットインをこれから迎えるバトンにとってみれば、軽タンクで飛ばし逆転をねらうはずだったのに、逆に抜かされてしまうとは。この時点でバトンにとっては万事休す。

 結局2回目のピットインを全車が終えてみると、ベッテル、ウェバー、バトン、バリチェロというオーダーに。そのままチェッカーへ。ベッテルはバトンに対し40秒以上の大差をつけて2回目の優勝を勝ち取りました。2位にはウェバーがそのまま入り、ブラウンGPとレッドブルの戦いは、レッドブルの完勝となりました。

---ベッテルとレッドブルの強さは本物か?
 さて今回のレース、レッドブルとベッテルは単に運がよかっただけなのでしょうか。昨年のイタリアGPでのベッテルの初優勝も雨のレースでした。ですので、ベッテルはウェットに強いというのは確かなようです。そして同じくレッドブルのマシンも雨には比較的強いのでしょう。セイフティカー導入の1回目はベッテルにとって不運でしたが、2回目は有利に働きました。結果+/-ゼロと言えそうです。

 しかし、前2戦と今回の予選でのレッドブルの強さも忘れてはいけません。今回のレースがもしドライだったらどうなっていたでしょうか? それでもベッテルが勝ったか、バトンが強さを見せて逆転したか、どちらともあり得そうです。少なくとももっともっと僅差のレースになっていたことでしょう。

 ディフューザー問題が決着し、各チームとも今後のレースに向けてマシンのリアエンドのデザインを大きく変えてくる可能性があります。特に資金を持っているチームならば意外にそのタイミングは早いかもしれません。そうなるとまたチームの勢力図はがらりと入れ替わりそうです。名門の復活なるのか、あるいは新たな伏兵が現れるのか? しかし、レッドブルの今回の強さは、必ずしもディフューザーのデザインだけが、マシン差の原因ではないことを示しています。しかも、そのレッドブルは最もリアエンドの設計変更が難しいマシンとも言われています。

 他のチームの進化に対抗し、エイドリアン・ニューウェイはどんな手を打ってくるでしょうか? そして今現在好調を保っているブラウンGPやウィリアムズは、マシンのアップデートを重ねてくるであろう他のチームに対し、どれだけ優位を保てるでしょうか。

 意外な展開で3戦目まで終えた今シーズン。ということで、チャンピオンシップはこれからもまだまだどうなるか見えてきません。昨年の4強チームがもう少し強くなってくると、さらに面白くなりそうです。特にフェラーリ。信頼性の問題多発で、今シーズンは未だにノーポイント。かなり重症です。これではイタリアのファンが暴動を起こしかねません。とはいえ、フェラーリは90年代、長らく勝てない時代があったわけで、シーズン通しての不調は初めてというわけではありませんが。

 さて、次回は早くも今週、中東の砂漠の中のレース、バーレーンGPです。さらなる面白い混戦を期待します!