酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2009年F1第2戦 マレーシアGP

 開幕直後の春先のレースとしてすっかりお馴染みとなった、マレーシアGPがクアラルンプール郊外のセパン・インターナショナル・サーキットで開催されました。F1の決勝と言えば、通常午後1時か2時頃にスタートするのが普通で、このマレーシアGPも昨年までは例外ではなかったのですが、今年はスタート時刻が大幅に繰り下げられ、午後5時のスタートとなりました。これには主に二つの理由があると思われます。

---夕方のレース
 理由の一つ目は気候の問題。赤道に近く熱帯のマレーシアは、高温多湿で日差しも強烈なため、真昼のレースはマシンにもドライバーにもチームクルーにも、そして観客にも非常に厳しい条件です。これをいくらかでも緩和するために、涼しくなる夕方のほうがレースには条件が良いのは当然です。

 そしてもう一つは時差の問題。アジアで開催されるレースは、ヨーロッパの生活時間帯に生中継することができないという問題が以前から指摘されていました。マレーシアでも夕方開催となれば、ヨーロッパのほとんどの地域で、午前中の普通の生活時間帯に放送できます。F1は未だにヨーロッパ主導で動いている世界なのです。

 昨年初開催されたシンガポールGPも、興行的な意味に加えて上の二つの理由でナイトレースとなり、大成功を収めました。特に二つめの時差の問題では、アジアのレース主催者には強い圧力がかかってるようです。かといってナイトレースは設備の問題で簡単にはできません。マレーシアGPは苦肉の策として、夕方開催という道を選びました。

---開幕戦の余韻
 衝撃的な結果となった今年の開幕戦、オーストラリアGPからわずか1週間。マシン開発ができるわけもなく、チームの勢力図はほぼオーストラリアGPのまま変わらずに、マレーシアに持ち越されたはず。しかし、フリー走行では一瞬とはいえフェラーリのワン・ツーが見られるなど、もしかして早速巻き返しが起こるのか?という期待も感じさせます。

 しかし、肝心の予選が始まってみれば、結局のところブラウンGP、ウィリアムズ、トヨタの強さが相変わらず目立ちます。そしてレッドブルがそのトップ集団に混じってきたのが目新しいところ。一方で昨年のチャンピオン・ドライバーを擁するマクラーレンは、2台揃って仲良くQ2落ち。フェラーリに至っては、ライコネンは順当にQ3まで残れたものの、マッサはなんとQ1落ち。これはチームの作戦ミスだったようです。手を抜いていてもQ1は軽々と通過できた昨年までと違って、今のフェラーリはかなり真剣に走らないと、Q1もQ2も危ない位置にいます。Q1で真剣に走ることにマッサもチームも慣れていなかったのでしょう。

 ということで、ブラウンGPのバトンが堂々の2戦連続ポール・ポジションを獲得。しかし、前戦のようにブラウンGPの圧勝という雰囲気はなく、バリチェロはバトンの0.5秒遅れ。ブラウンGPの2台の間には、トゥルーリとベッテルが飛び込むなど、上位は混戦模様です。しかも、前戦のクラッシュの責任を問われ、ベッテルは10グリッド降格、バリチェロは金曜日にギアボックスを交換したために5グリッド降格など、複雑な調整が入ります。その結果フロント・ロウはバトンとトゥルーリ、セカンド・ロウはグロッグとロズベルグ、ライコネンは7位、アロンソは9位など、とてもわかりにくいスターティング・グリッドとなりました。

---雲行きの怪しい決勝レース
 今シーズンからスタート前に各マシンの重量が発表されるようになりました。昨年まではどの車がどのくらい燃料を積んでいるか?と言った、作戦上重要情報は推測でしかなかった(しかし結構正確だった)のですが、今年からは明確に分かるようになっています。

 今回のレースでいえば、軽タンクでスタートしたのはレッドブルの2台や、ウィリアムズのロズベルグ、トヨタの2台など。逆に重たいのはマクラーレンの2台、マッサ、アロンソと言ったあたりです。トップのバトンやバリチェロのブラウンGP勢はそこそこ積んでいました。燃料積んでいてもタイムが出ているという事実に、そのポテンシャルの高さがなおさら際だちます。

 マレーシア時間の午後5時、いよいよ決勝のスタートですが、周囲の空にはどんよりと黒い雲が立ちこめています。天気予報によると、レース開始後20分ほどで雨が降り出すようです。Q3に進出できなかったマシンは、雨のこともあり燃料を多めに積んでいるようですが、Q3を走ったマシンはそうとも限りません。スタートはもちろん全車ドライタイヤを装着していますが、雨の降り始めとタイヤ交換のタイミングによっては波乱の展開が予想されます。

---激しいバトルが見られた序盤
 スタートではバトンが出遅れてしまい、なんとロズベルグがトップをとります。その後ろもアロンソやライコネン、バリチェロなどがジャンプアップしますが、スタート直後の数周は上位の順位変動が激しく入れ替わり、その間にロズベルグが独走態勢を作り上げていきます。一方、大幅に順位を落としたバトンですが、マシン性能と勢いはやはり圧倒的で、順当に順位を回復し3位まで上がってきます。しかし、その後方では重タンクのアロンソが後続を押さえて数珠繋ぎに。バリチェロ、ライコネン、ウェバーなど後続車が次々にアロンソに襲いかかります。しかしさすがはアロンソ、いかにスピード差があると言っても、簡単にオーバーテイクはさせません。このアロンソに絡むバトルは、どれもとても見応えがありました。

 フロントウィングを大きく、リアウィングを小さく、ディフューザーを制限し、KERSを搭載するという今年のレギュレーションは、オーバーテイクをし易くするためのレギュレーションと言われています。確かに今回のレースを見ていると、接近戦が増えたような気がします。醜くなってしまったF1マシンではありますが、レースを面白くするという点では成功なのかもしれません。

 アロンソは重タンクでコーナーに苦しみながらも、KERSを使ってストレートの加速競争で、非KERS搭載車を押さえ込みます。しかし重いマシンは止まりません。結局ブレーキングでまた刺されてしまいます。しかし、それを読んでうまくクロスラインを狙い、続くストレートでKERSでブースト。一気にまた順位を取り返す、ということを何度か繰り返していました。こういったバトルは確かに今年のマシンだから可能になったと言えるのでしょう。

---なかなか降らない雨
 そうこうしているうちに周回数は10周を超えてきました。そろそろ雨が降るといわれている時間帯。しかも1回目のピットインのタイミングが近づいています。雨が降るのであれば早く降り始めてもらい、うまいこと1回目のピットインタイミングでレインタイヤに変えてしまいたいところ。ドライのままピットインし、直後に雨が降り始めて再度レインタイヤ交換しなくてはいけなくなるというのは、最悪のシナリオです。しかし、多くのマシンが雨を待ちきれずにピットに雪崩れ込み始めました。

 そんな中、信じられない作戦をとったチームがあります。なんとフェラーリはまだ雨が降っていないのに、ライコネンのタイヤをヘビーウェットに変えるという、前代未聞の奇襲作戦をとってきました。あと数十秒後に必ず降るという確信があったのでしょうか?F1のヘビーウェットタイヤは、ドライ路面をまともに走ることはできません。タイムも出ないしあっという間にタイヤが壊れてしまいます。雨が降るのが2周後かもしれない... と言った状況では取り得ない作戦のはず。

 果たして、ライコネンはまともに走らないマシンで、ラップタイムが10秒以上落ちてしまい、事実上レースから脱落してしまいました。その後、雨がようやく降り始めたときには、すでにそのタイヤはダメになっており、結局再度ピットインするという最悪の結果に。

 シーズン序盤、ポイント圏内を走行中、しかも周囲と比べて、そう大きくピット作戦が違うわけでもなく、ペースが遅いわけでもありません。他のすべてのチーム、マシンは仕方なく1回目のピットではドライタイヤに交換しています。周りに合わせておけば、悪くても今のポジションは守れますし、レインタイヤへの交換タイミングをうまく当てれば、ジャンプアップするチャンスはまだまだありました。何もここで大きなリスクを負って、考えられない奇襲作戦を仕掛ける必要はなかったはずです。このフェラーリの行動は全く理解不能です。

 さて、気を取り直してトップ争いに目を移せば、比較的軽タンクだったロズベルグが早々にピットインしたのに対し、バトンはかなり引っ張ります。結局バトンはこのピットタイミングの差を利用して、1回目のピットを終えたところで、まんまとロズベルグの前に出ることに成功し、トップを奪還します。まさに定石通りの王者のレース運びです。

 しかし、今回のレースはある意味ここまでで終了。この後はもう何が何だか全く分からなくなりました。

---豪雨
 ほとんどのマシンが1回目のピットインを終えた20週過ぎ、遅すぎた雨が降り始めました。全車ほぼ同じタイミングで再びピットインし、ヘビーウェットタイヤに交換します。バトンは他車よりウェットタイヤへの交換タイミングが1週遅れたのですが、幸いポジションに影響はありませんでした。しかし、この交換タイミングによって順位は大幅に入れ替わってしまいます。

 中継画像で見る限り、最初はそれほど激しい雨には見えませんでした。各マシンもほとんど水しぶきを上げていません。ヘビーウェットではなくてインターミディエイトでも走れるのでは?と思えるほど。しかし、ラップタイムは非常に遅く、コーナー出口でふらついてまともに加速できないマシンが続出。コースアウトもそこら中で発生しています。

 そして30週目を超えたところで、尋常じゃない豪雨に。中継映像からもその異常な大雨の様子が伝わってきます。マシンはまるで川の中を走ってるかのようになり、もはやレースになっていません。また、一瞬映し出された誰かの車載カメラの映像は、何も写っていませんでした。

 このとんでもない大雨の状態にいたって、セーフティーカーが出動しましたが、それでもF1マシンを走らせること自体が危険と判断されて、すぐに赤旗中断となってしまいました。スターティング・グリッド付近に戻ってきた各車は、てんでバラバラに停まっており、もはや順位がどうなっていたのかも全く分かりません。

 結局今回のマレーシアGPは、雨が回復する前に日没を向かえ、そのままレースが再開されることなく、終了してしまいました。ただしレース成立条件の周回数に達していないため、ポイント配分は半分という中途半端な結末に。そんなレースですが、一応優勝したのはバトン、2位がなぜかハイドフェルド、3位にはグロッグが入りました。序盤トップを快走していたロズベルグは8位に。あり得ない作戦をとったライコネンは14位まで落ちてしまいました。

 ちなみにポイントが絶望的なポジションにいたドライバーたちは、ある程度のところでレースをあきらめ、マシンを早々に降りてしまっていました。彼らは仮にレースが再開されても走る気がなかったのでしょう。ドライバー代表のウェバーが各ドライバーたちの意見を聞きに走り回ってる映像も見られました。危険な状況でレースが強行されることに反対していたのではないかと思われます。

 中でも、ライコネンは早々にマシンをピットに戻し、失意のどん底でうなだれているか、チームの作戦ミスにご立腹しているかと思われましたが、レース続行断念が決まった頃の国際映像には、すっかり着替えてアイスを咥え、コーラを冷蔵庫から取り出してるライコネンの姿が映し出されていたのには笑ってしまいました。


---無理のあった夕方レース
 結果論かもしれませんが、マレーシアの気候から考えて夕方のレースというのには大きな問題があったのではないかと思います。多少のスコールならレースを面白くする要素だ、と考えたのかもしれませんが、場合によっては今回のような、レースができないほどの雨になることも予想されたはず。来年に向けてマレーシアGPの運営には課題が残ったのではないかと思います。

 暑さの問題がどのくらい深刻なのかは分かりませんが、時差の問題で無理をして、結果レースができなくなるのでは意味がありません。F1界に影響力を持つヨーロッパの人々にはよくよく考えてもらいたいところです。


 次戦は来週、中国の上海GPです。決勝レーススタートは現地時間の午後3時です。