酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

つくもがみ貸します:畠中恵

つくもがみ貸します (角川文庫)

つくもがみ貸します (角川文庫)

 

 「しゃばけ」シリーズで人気の畠中恵さんの比較的最近の作品です。「しゃばけ」シリーズは最新の「ちんぷんかんぷん」まで全て読みましたが、同じような妖(あやかし)達が活躍する小説が他にも何冊か発行されています。この本はそのタイトルにもあるように付喪神(つくもがみ)達が主役です。付喪神とは作られてから百年の時を過ぎた様々な道具など「物」に宿る妖です。掛け軸、茶碗、人形、簪、帯留め、根付等々、人間によって作られ長い間大事に使われてきた物に生まれる不思議な妖たちから見える人間の世界とは...。

 深川で若い姉弟が営む出雲屋は古道具屋兼損料屋を生業としています。古道具とくれば当然そこには古い物が集まってくるわけで、自然と付喪神と化した霊験あらたかな器物が集まってきます。ちなみに損料屋とはいわゆる今で言うレンタル業だそうです。個人から商家までいろいろな人を相手に布団など日用雑貨から料理屋向けの飾り物などなど、いろいろな物品を貸し出していたと言うことですが、この商売は江戸、特に深川の人々の暮らしの中には深く浸透していたそうです。これまでいろいろな江戸市井もの時代小説を読んできましたが、損料屋というのは初めて聞いた気がします。

 さて、物語は出雲屋を営む姉弟、お紅と清次とそこの商売道具である付喪神達の奇妙な関係をベースに、お紅と清次の過去の謎へと展開していきます。しゃばけシリーズもそうでしたが、基本的に畠中さんの小説はミステリー仕立てになっています。この物語ではお紅と清次が二人で出雲屋をやることになった過去にまつわる話。二人の前、特にお紅の前からある日忽然と姿を消してしまったある大店の跡取り息子と、彼が俳号に使っていた"蘇芳"という名の香炉を巡るミステリーです。

 五つの章立てで構成されており、一話ずつ完結する短編集でありながら全体としても一つの大きなストーリー仕立てというところから、この作品は単行本に書き下ろされたのではなく雑誌に連載されたシリーズであることが分かります。それぞれの章はそれぞれ付喪神の一人語りから始まります。これが非常におもしろくてあっという間に読者を付喪神のいる世界へと引き込みます。

 しかしお紅と清次と付喪神達の関係はしゃばけシリーズにおける若旦那一太郎と妖たちのそれとは少々異なっています。一太郎には妖の血が混ざっていたけどお紅と清次は純粋な人間(?)なのだから当たり前ではあるのですが。この人間と妖たちの一筋縄ではいかない関係にもどかしさを感じながらも、この物語をおもしろくしている背景の一つとなっています。

 さて、結末はどうなるのか。ミステリーとしての謎はなかなか深いながらも、全体的にファンタジーでありながら変に結末が重々しかったり、やたらに涙を誘うものだったりせず、軽妙でコメディ的な部分をうまく残しつつも少し感動的で、とてもバランスのいいストーリーと結末だと思いました。お紅と清次と付喪神達の奇妙な関係を存分に楽しめると思います。

 さて、自分の身の回りには付喪神はいるでしょうか?どう見回してみてもこの世に生まれてから百年も経っている物は見あたりません。江戸東京博物館深川江戸資料館にでも行けば出会えるでしょうか。おしゃべりは聞かせてもらえそうにありませんが。


 ところで、余談ですが「しゃばけ」シリーズもそうなのですが、この物語の中でも付喪神と化した器物の一つとして"根付"というものが出てきます。木材や場合によっては象牙などを彫って加工した小さな物で身につける物らしいのですが、これまた他の時代小説では小道具としてあまり出てくることがなく、根付って何だろう?という疑問がわいてきます。そういう場合、ネットは便利ですね。すぐに出てきました。

 根付とは↓こんなものだそうです。フリー百科事典Wikipediaより。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B9%E4%BB%98

 日本人はこういう飾り物としての小物が好きですよね。今で言うと携帯ストラップみたいな物でしょうか。利休鼠や猫神の根付付きストラップってないかな?

 aisbn:4048737864おすすめ度:★★★★☆