酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

誰か Somebody:宮部みゆき

誰か―Somebody (文春文庫)

誰か―Somebody (文春文庫)

 

 宮部みゆきさん作の現代物です。文庫本の最新刊として1月から本屋さんの目立つところに平積みされていました。これが時代物なら迷わず買うのですが、現代物と言うことでやや躊躇して、何度か買おうか買うまいか悩んだ末に結局買ってみることに。彼女の現代物は「模倣犯」以来。それ以前、時代小説にはまる前には「火車」とか「理由」とか「レベル7」とか新旧いろいろ読んだことがあります。この小説はやはり「模倣犯」のあとに執筆されたものだそうで、宮部みゆきさんが押しも押されぬ大人気作家になってから手がけたとのこと。さて、どんなものでしょうか?

 もちろんこの小説はミステリーものなので、あらすじや勝手な個人的解釈含め内容に触れるのはやめておきます。とりあえず文庫本の背表紙に書かれた範囲内で背景を紹介するとすれば... 主人公は杉村三郎。縁あって勤める会社のオーナーの個人運転手をしていた男の不振な事故死の調査をすることに。あとに残された二人の娘との関わり合いの中から、事故死した一見するとごく普通の平凡な人生を送ってきたかのような男の過去に隠された暗い闇を覗き込み、真相を探るためにどんどんと嵌り込んでいく... といった感じの物語です。

 読み始めてしばらくして感じたのは、文章がとても綺麗だと言うことです。いや、綺麗というのとは違うかもしれませんが、とにかく流れるような言葉のつながりはすらすらと読める上に、特に理解しようと努力することなくどんどん頭の中に入り込んでくる感じ。語り口は主人公である杉村三郎の視点にしっかりと固定され、最後まで全くぶれません。そして彼が見たもの、聞いたもの、感じたことが実に自然に表現されています。背景を説明されている意識はないまま、彼を取り巻く人間関係、とりわけ彼自身の置かれた微妙な立場、そして折り合いの付け方などがしっくりと頭の中に入り込んできます。そして彼の目線を通して、いったいどんなミステリーが展開していくのか...。久々に先が気になって気になって仕方がない小説でした。


 しかし、読み終わった結論から言うと、私としては正直なところ期待はずれ... でした。ミステリーとしての深さが足りないというか、明らかになった真相は「ふーん、そんなことだったのか」の域を出ないというか。そして、そのミステリー部分の紐のほどけ方もイマイチ。意外性をつくという点では確かに前半からは思いもよらない方向へ話が急展開するのですが、見事な文章で想像がふくらんでしまった私の頭の中からすると、ふたを開けてみればスケールはものすごく小さくて、深いと思っていた闇がものすごい浅瀬だったというがっかり感があります。とにかくスッキリしない読後感です。


 それからもう一つ、最後のクライマックスで主人公の杉村三郎が"品性のかけらもなく卑しい唾棄すべき人間"と評した人物の言葉に「一理ある」と感じてしまいました。杉村三郎のように相手を殴りたい衝動に駆られることもなく「う~ん、そういう考え方もあるか・・・」と図らずも悩んでしまった私の品性はどうなんだろう? ちなみにその言葉を(落ちが分からないように)意訳すると、

「騙されてることを知っていながら知らん顔するのは騙すこととどう違うのか?」

「私にはそういう根性とか戦略性というのはない。もっと生身の人間なんで目先の感情に振り回されてその場しのぎを繰り返すんです。」

 以上二言。ドッキリしました。しませんか? しませんよね。というか意味分からんですね(A^^;

 ということで、どうも最近現代物小説と相性が良くありません。最近ハードカバーで発行された宮部みゆきさんの最新刊「楽園」は「模倣犯」の直接的な流れを汲む作品らしく気になるのですが。でもやっぱり時代小説の新作が読みたいです。茂七親分の活躍する時代物の続編はもうでないのでしょうか。


 aisbn:4167549069お勧め度:★★★☆☆